Mx30.4.8 11:40a.m.

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Mx30.4.8 11:40a.m.

 ──だって仕方ないじゃないか。  そう言って、テーブルの一角に山と積まれたレテへの花束を整理しつつ、華維人が甘い笑顔で笑う。 「このままお別れなんていくらなんでもあんまりだ、ってうちの可愛いリーダーがさめざめと泣くものだから。シアンも分かりやすく不機嫌でね。普段頑張ってる子たちの願いのひとつも叶えてやれずに何が司令官なのさ。──キミもそう思うだろ? ザイオン。……あ、これ早めに水切りしたほうがいいな。米田、外の水道使わせて」 「どうぞどうぞ」 「ウンウンわかるよー。普通は所属拠点で送別会をするものだから。夕べ花屋(フラワーショップ)から代理拠点として急遽やるって打診があって、そしたらウチのチルカちゃん達がズルいズルいってさ。あの子達も皆、君とは長い付き合いだからねー。──やー、それにしても! ジェイドのタスキが一番の難関だと思ってたけど、さすが僕の副官だよ!」  カウンターでミントティーの香りを楽しんでいたスーパーマーケットの店長(司令官)、ザイオンも同意する。その一部に同意しかねた円堂が、ドリンクの盆を手に店内を忙しなく回りながらも「いや最難関はどう見ても俺です!!」と抗議の声を上げた。  当のジェイドはと言えば、ザイオンの横でフレッシュジュースを片手に涼しげに立ち、「レテも大きな声が出せたんだな」と、どこか明後日な感想を呟いていた。 「うちも似たようなもんだ。そんでまあ、ならいっちょ皆で盛大にやろうかってな! 全拠点に通達を出した! とはいえ、お前は単純に誘っても来ない気がしたもんだから、サツキ達に一芝居(ひとしばい)打ってもらった。──騙すような真似して悪かったなレテ」 「せっかく可愛く整えたのにやめてくださいてんちょー」  おもちゃ屋店長(司令官)戸井(とい)顎人(あぎと)が豪快にレテの頭を撫でると、蒼井がすげなくその手を払った。ほんの少し傾いただけのティアラを几帳面に直され、戸井は「相変わらず細かいな」とこぼす。  一見、殺伐として見えるやりとりの中に、どこか甘ったるい空気を感じるのは気のせいではない。ジェイドがそっとこの場を離れ、テラスへと行ってしまったのもそのせいだ。  ──二人は、つい先日結婚式を挙げた。  普段はクールな蒼井だが、『戸井さん』と呼ぶと顔を真っ赤にすると魔法少女ネットワークでは専らの噂だ。──今ほど呼んでさしあげたい瞬間はない、とレテは腹の底でちょっぴり思う。 (……全拠点に……通達……)  レテからすればもはや狂気の沙汰。「さすがにいっぺんには入らないから時間帯を分けてみんな来るぞ!」といい笑顔で言われてもそういう問題ではない。  余談であるが、レイの加護も、ケープの防御機能も、タスキの魔力増幅効果も、なんと本物らしい。ティアラは魔力回復力を高めるという。餞別だそうだ。  『大規模作戦』──騙されたようで完全に騙されたわけではないあたり、ある意味更にタチが悪い。  今に始まったことではないが、本当に無駄に全力が過ぎる人たちである。
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