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「あの……ごめんね、レテちゃん。勝手に……」
乾杯直後からフラフィーの背に張りつき、そのフワモフ髪に顔を埋めてなんとか正気を保っているレテであったが、さすがに見かねたのだろう、オリンがおずおずと声を掛けてくる。
レテはぐりぐりと首を振った。
オリンは何も悪くなく、送別会とて別に迷惑というわけではないのだ。
こういう場が不慣れで、己が主役ともなれば尚のこと気恥ずかしくはあるが、無拠点のはみ出し者のためにこんな大掛かりな手間をかけてくれた。それが嬉しくないと言ったらもちろん嘘になる。
ただ──てっきりワルプルギスに関する作戦だと思い込んでいたレテには、期待値が高かった分それなりに反動が来てしまっていた。
それで心を落ち着けようと、今、困った時のフワモフ頼みをしているというわけだ。
フラフィーの薄桃の髪はこの四年で更にパワーアップし、まるで極上の綿菓子であった。
「でもでもぉ、レテちんそのカッコほんっと似合ってるよぉ! 高潔な白のクイーンってカ・ン・ジ♡」
「……く……くいーん……」
「PnstagramとかぁTokTokにアップしちゃいたいくらい! 絶っ対バズるし♡」
「ぇ……SN……S……」
「もー、ソレ厳禁だからねベリーちゃん! 昔先輩が投稿したやつがバズって、魔法少女をアイドルか何かと勘違いしちゃった人達がまじょりシティーに押しかけてきて大変だったじゃん。一時期ヴィラン討伐どころじゃなかったし」
オリンが青い顔で頷く。
「……ああ……二年くらい前の。──公共交通機関もパンク状態で、あの頃は司令官たち皆ピリピリしてたよね……おもちゃ屋の前で腕を組んで仁王立ちしてる戸井司令なんて完全にあっちの自由業の人みたいで……。あれからSNSへの写真アップが禁止になったんだよね」
「ベリーちゃんもバリバリ追いかけ回されてたでしょ? 駄目だからね絶対!」
ぷんすことフラフィーがお小言を言えば、ピンクの愛らしい魔法少女ホワイトベリーは「冗談だよぅ♡」とウインクをして、イチゴのショートケーキをひと口差し出す。身動きが取れないフラフィーは素直にそれを頬張り、ふにゃりと口元を綻ばせた。
──チョロい、という小さな呟きを聞き取ったのは、カウンターの向こうでグラスを拭く米田だけであった。
「──はーい! すみません、そこ通りますよー!」
溌剌とした声と共に、キュン! と独特の高い音が床に響いたのはその時だ。
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