Mx30.4.7 6:20p.m.

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Mx30.4.7 6:20p.m.

 暮れなずむ春の空に、二人の少女の声が重なる。 「──〝閃光の風輪刀(レイ・エアカッター)〟!!」  夕焼けに光の弧を描く、四葉の意匠が施された飛輪(チャクラム)。その軌跡が数千、数万の小さなクローバーの刃となりヴィランに向け解き放たれる。  魔法少女必殺の掛け声から逃れられる者などいない。  風に舞う薄紅色に紛れるように、ほろほろと淡く消滅していくヴィランを見届けながら、レテは周囲を見渡した。  黒い(もや)はもう見えず、辺りは清浄な空気を取り戻している。──どうやら、これで終わりのようだ。 「……今のが最後ね。お疲れさ──」  労いの言葉半ばに、どん、と身体に軽い衝撃があった。たった今、共に必殺技を放った花屋(フラワーショップ)の緑の魔法少女が、レテを抱きしめたのだ。  レテはぱちぱちと瞬きを繰り返し、しかしすぐに、その温かい身体がほんの少しだけ震えているのを感じとった。──そして、その理由も。 「…………オリン。後輩たちが」 「……うん。……ちょっとだけ。……ごめんね……」  視界の端、花屋(フラワーショップ)の魔法少女たちが何事かと顔を見合わせているのが見える。  皆、当惑の表情だ。常には凛と立つ頼れる先輩の、この突然の行動を思えば当然である。  ハイドランジアの魔法少女シアンだけは、同い年組だけあって察しているのだろう、やれやれと小さく肩を竦めていた。  ──さてどうしたものか、と思案していると、オリンのインカムから爽やかな声が流れてきた。 『戦闘終了だ。皆お疲れ様。リーダー以外のメンバーは全員ただちに帰還してくれ』 『でも……』 『大丈夫だから。戻っておいで』 『──了解、司令官(コマンダー)』  その声は、花屋(フラワーショップ)司令官、華維人(カイト)のものだった。  柔和な口調の中にある、有無を言わさぬ響きはさすがといったところか。一糸乱れぬ応答のあと、所属の面々の姿が春風のように掻き消える。  その気配が完全に遠のくのを待って、ようやくレテは口を開いた。 「……らしくない。後輩たちを不安にさせるなんて。リーダーは常に冷静であること。あなたの口癖でしょう」 「ん……そうだよね……でも今日は特別なの。レテちゃんと会えるのも、あと二日……ううん、実質、あと一日でしょ? ……もう、一緒に闘える機会があるとは……限らない、から……」  何と返せば良いのか咄嗟に浮かばず、レテが躊躇いがちに腕を回すと、オリンはすん、と鼻をすすった。 「……いっしょに、いっぱい、倒してきたね」 「もう数をかぞえるのもうんざりするくらいにね。……昔、一体だけ取り逃したけど」 「……ふふっ。覚えてるよ。一つ眼のパイナップル」  あれ、結局何だったのかな、と小さく笑い合う。
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