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混迷極まる店内で、華維人がパンと大きく拍を打つ。
「──皆、落ちついて。浮き足立ったらそれこそ敵の思う壺だよ」
しん、とそれで魔法少女たちが水を打ったように静まり返る。
「ケイトとレテに関しては、心配だろうけどいったん僕らに預けてほしい。皆には、これから大きな仕事をしてもらわなきゃならない。どうか力を貸してくれ」
魔法少女たちは目が覚めたように互いを見合い、はい、と一斉に背筋を伸ばす。
その様子に、戸井は内心舌を巻いた。特に声を張り上げるでもなく、たったひと言で人を従わせるカリスマ性──それが華維人にはあった。
「──ザイオン」
『聴こえてるよ』
「了解。さて……本来ならこの場は米田が仕切るべきだけど今は荷が重い。……となると……」
華維人は通信具を片手に密やかな声で言い、同僚たちをぐるりと見回した。
「俺は細々しいのは向かねぇ」
「ぼくもだなぁ。しげの方もフォローが必要だし、後方支援に徹するよ」
『やってもいいけど……ジェイドをカイトの補佐に付けて、僕がこのまま現場に入ったほうが上手くいくと思うな。君がやりなよ』
「……それしかないか」
戸井が投げて寄越したインカムを受け取った華維人は、一度目を伏せ、ひとつ深く息を吐いた。──白髪だった彼の髪が、レインボーローズのようにさあっと色づく。
「わぁ、色が……」
「〝妖精の祝福〟──ウチの司令官が能力を使うと発現するんだよー」
初めてその現象を目の当たりにしたオムレットに、隣からシアンが応えた。
「不思議だよねーアレ。どういう仕組みなのかなぁ? やっぱり遺伝が関係してる? ほんと夢みたいに綺麗……引退までに解明……したいなぁ……」
遺伝学と魔法について日々研究に明け暮れるシアンはそう言って、悩ましげな吐息を漏らし熱い視線を送っている。が、どう見ても夢見る瞳というより完全に獲物を狙う狩人のそれで、オムレットはそろりと一歩横に距離を空けた。
二人とも静かに、と前列からオリンが諌める。その声が思いのほか低く、おっと、とシアンは口を噤んだ。
オリンの手は固く握り込まれている。凛としてリーダーらしい姿を保っているが、付き合いの長いシアンには、彼女が今あらゆる感情を薄皮一枚で抑えていることがわかる。一見冷静に見えても、いざ戦闘となれば果たして。
(……仕方ないなぁ。しーちゃんが支えてあげますか)
花屋メンバーにとって慣れ親しんだ魔力が、足下──地中を通って広がっていくのを感じる。
やがて指定域に達したそれが、魔力持ちにしか見えない二重のラインとなって浮かび上がるのを東西南北に配置された魔法少女たちは見た。
再び目を開いた華維人の空色と金のオッドアイに、怜悧な光が灯る。
『──皆、聴こえてるね? 見ての通りだ。現在、カフェ拠点はヴィランの奇襲を受けている。結界の稼働率は70%をきった。緊急事態につき、僕、花屋の華維人が総司令官として指揮を執る』
華維人の声が、無線を通してまじょりシティーの全拠点に伝わる。
花屋からカフェの上空を見つめる華鈴にも、それは届いていた。カイト──という小さな呟きは、劈く鳥の鳴き声に掻き消される。
『今から防衛線を敷く。このカフェを起点に70フィートを第三防衛ライン、結界のある150フィートを第二防衛ラインと定める。それより先の前線を──ザイオン、任せても?』
『もちろん』
『スーパーマーケット拠点、そしてザイオン司令官が中心となって前線を受け持つ。敵を可能な限り250フィートないし300フィートまで押し返し、そこを第一防衛ラインとして結界の修復まで保守せよ!』
「はい!」
『総員、各司令官の指示に従い配置へ!
──【星乙女作戦】、開始する!!』
* * *
【Last Days前編/了】
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