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──思えば、四年前のあの奇っ怪な新種ヴィランらしきものとの遭遇が、レテが他の魔法少女との距離を縮めるきっかけとなった。
愛想のなさは相変わらずであったし、基本寡黙であることも変わらなかったが、それでもあの時共闘した少女たちを中心にレテは少しずつ言葉を交わすようになった。
特に、コミュ力カンストのアイスブルーは同拠点のスフレを巻き込み〝レテちん〟呼びを定着させ、経緯を知らぬ魔法少女たちに衝撃を与えたものだ。
同学年のオリンとフラフィー相手には、控えめな笑顔すら見せるようになった。──もっとも、フラフィーのフワモフ髪の手入れをさせてもらった時の、ふにゃりとたわんだ口元までもオリンに見られていたことは知る由もないが。
「……みんな、いなくなっちゃうなぁ……」
アイスブルーも、スフレも、もういない。
「……仕方ないわ。これだけはどうにもならないもの。順番よ」
ぽんぽんと背を叩きながら宥めるように言えば、一層強くしがみついてきた。
──『魔法少女』の規定は厳格に定められている。
まじょりシティーに住民票を置く、13歳から18歳までの女子であること。
市役所にて『魔法少女申請書』を提出し、能力値測定などの適性検査を経て、晴れて『拠点』から変身用の依代を受け取る資格を得る。
任期のノルマはなく、いつでも辞めて構わない。
ただ──どれだけ長く務めようと、18歳まで。
19歳を迎える日、魔法少女は依代を市役所へと返納し、任を降りる。それはいかなる理由も例外も通らない鉄の掟であり、破れば条例違反として厳しい処罰が待っている。
そして、彼女たちは基本的に己のチーム以外に素性を語ることはしない。
OGとなった後の身の振り方を知るのは、各々の拠点の司令官ただ一人。他の所属メンバーをはじめ、副司令官にすら明かされることはない。
戦闘魔力を失い、ただの民間人に戻る彼女たちにとって、その暗黙のルールは身を護ることに繋がるのだ。
そのための──〝また〟が訪れない別れ。
「オリンはもう少し先よね? みんな大泣きするのが目に浮かぶわ」
「えへへ。私が一番泣いちゃいそう……」
確かに、と苦笑しながらふと上を見れば、ひらひらと散る花弁が夕陽を受けきらめいていた。
花屋の目印、そしてまじょりシティーのシンボルツリーでもある桜の木。樹齢千年は下らない、花を咲かせては散るを一年中繰り返す久遠の桜花。
「綺麗……金色の雪みたい……」
交流を持ち始めた頃よりも随分背が伸びたオリンが、そう言って宙へと右手を伸ばす。
その腕はほっそりとしなやかで、長い指の先に輝くグリーンのネイルは昔よりずっと似合っているように思う。
成長したのは外見だけではない。優しく気弱だった彼女は、今や他拠点からも信頼を寄せられるリーダーとなって活躍している。
(……私は、変わったのかな……)
光り輝く雪片を一身に受けながら、レテは一瞬、追憶に墜ちる。
真新しいセーラー服。期待に胸を膨らませ、『魔法少女』になれる数日後を待ち侘びていた六年前。
その日から今日まで、ほんの瞬きほどのようで、気が遠くなるほど長かった気もする。
「……今までありがとう。オリン」
『永遠に来ないで』と祈り、その実、『早く来て』と願い──振り子のような想いを抱えながら、レテは四年と半年の歳月を駆け抜けた。
Mx30年4月9日。
レテの19歳の誕生日が、まもなくやってくる。
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