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Mx30.4.7 7:40p.m.
花畑を抜け、商店街を通り過ぎ、水鏡しずくは日の落ちた遊歩道を行く。
ここはいつも静かだ。幼いころ祖父に手を引かれ、おもちゃ屋へと続くこの路を数えきれないほど歩いた。
その宝石の欠片のような記憶も、今や共有する相手は立ち並ぶ街灯と少し色褪せたベンチのみである。
しずくは更に奥の細道へと曲がった。その先に民家は数えるほどしかなく、ぽつりとひとつだけ点る街灯──先ほどの遊歩道に並ぶおしゃれなものとは違い、申し訳程度に電柱に括り付けられたもの──が、事切れる寸前のように細かく明滅していた。
──それは、まるで今のしずくのようで。
頭をひとつ打ち振って、余計なことは考えず真っ直ぐに進む。やがて、ぼんやりと輪郭を現した〝そこ〟は、高級住宅街との境で今日も薄闇の中に沈んでいた。
「……本日も無事に戦闘終了。被害レベル1。討伐数35。ポイント227。……任期の終わりが近いからか、今日は皆、積極的に私を頼ってくれました……花を持たせてくれたのでしょう」
そっと密めくしずくの囁きに、返ってくる声は無い。
朽ち果てた廃墟。
そこは、かつてのしずくの居場所だ。
魔法少女チーム『シャビー・クインテット』と、彼女たちが所属した拠点アンティークショップ。──その、成れの果て。
しずくは毎日、一日の終わりにここへ来て戦績報告をしている。
姉たちが、司令官にそうしていたように。
(……それも、明日で終わり)
はぁ、と大きく息をついて、しずくは敷地内へと踏み入った。ここは市によって立入禁止指定となっているらしいが、知ったことではない。
崩れた外壁に背を預ける。──このあたりに、司令室があった。
とはいえ実際は『司令室』という名の『作戦会議室』という名目の『お茶会会場』で、皆思い思いに私物を持ち込んでいたものだ。
姉のケージとリーダーのシザーズはペアマグカップを、クロックは手動のコーヒーミルを、インセンスはシノワズリの茶器を。ベルの巨大なテディベアは部屋を圧迫すると批難されていた。
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