町の踊り子

3/13
前へ
/13ページ
次へ
「ふう……」  何て素敵な景色。それに、何て空気がおいしい場所なんだろう。町にはこんな澄んだところはなかったな。  村の空気を堪能していると、パーカーさんが声をかけてきた。 「お、外に出て大丈夫か? 足まだ治ってねえんだろ?」 「ああ、すみません。外の景色があまりにも綺麗だったもので、つい」 「ほお、この村の良さがわかるか」  パーカーさんはにっこり笑顔になった。今私がお世話になってる宿のオーナーさんだ。少し強面だけど面倒見がよくて親切なおじさんだ。 「私、小さい頃からこういう山の景色に憧れてたんです。町を出てみようと思ったこともあって。でも、両親が許してくれなくて」 「ほお、そりゃまたどういうわけで?」  私は言うべきか迷ったけど、このパーカーさんには何故だか正直に伝えようと思えた。 「……町から外れると野蛮な人が多いんですって。そんなの、偏見ですよね」 「ほお、そりゃひでえな」  ははっと屈託なく笑うパーカーさん。無理して笑ってるようには見えない。何も、思わないのかな。 「あの、すみません、失礼なこと……」 「ん? ああ、気にすんな気にすんな。まあ、しょうがねえよ。そういうとこでしか生活したことねえやつなら、何かしら思うところはあんだろ」 「でも……」 「それに、村の連中はみんなじゃねえだろうが、大体のやつは思ってるぜ」 「……何をですか」 「町なんざ、なよなよしてて情けねえやつの集まりだってな」  私は思わず吹き出してしまった。 「はは。な? お互いさまなんだよ。だから気にすんなよ」 「ふふ、はい……」  パーカーさんのおかげで、ますますこの村が好きだと感じた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加