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「すっかりよくなったみたいね」
「ええ、おかげさまで」
三週間ほどして、エーシャはすっかり怪我が回復して元気になった。で、パーカーさんは断ったんだけど、悪いからって宿の手伝いなんかもしているらしい。
「ああ、本当に素敵な村だわ」
「そう? わたしは都会の方が憧れるわ」
「それはきっとここに住み慣れているせいだわ。私も、都会は嫌いじゃないけど、この村の美しさや温かさには負けるわ」
町に憧れているわたしと違って、エーシャは村に憧れてるみたい。変わってる。わたしはこの村が好きだけど、きっと都会の方がずっと素敵だと思うのに。
「あなた、また町に戻るの?」
「……ええ、まあ、そのつもり。踊り子の仕事もあるし」
「あんまり乗り気じゃないようね。そういえば、初めて会ったときから聞こうと思ってたけど、踊り子って何なの?」
するとエーシャは驚きを隠せない様子でわたしの方を見た。
「踊り子を知らないの?」
「知らないわ。村にはそんなのいないもの」
「まあ……。この村には伝統的な踊りがあって、とても素晴らしいと聞いていたのに」
「それは昔の話だ」
パーカーさんが外から帰ってきた。
「あ、パーカーさん。昔の話ってどういうこと?」
パーカーさんはわたしの質問には答えずに、エーシャに向かって言う。
「お前さんが村に来たのはその踊りを習うためか?」
え? どういうこと?
「ええ、この村に行けば真の踊りというものを教えてもらえると思ったものですから」
「ねえ、さっきからさあ、その踊りって何なの?」
「踊りっていうのはだな」
パーカーさんが身振り手振り口振りで教えてくれた。ああ、なるほど。
「じゃあ、エーシャはその踊りを踊る人なの?」
「え、ええ一応」
わたしはそれを聞いて、思い当たることがあった。
「もしかして踊りの訓練っていうのは」
「ええ、この村に伝わる踊りについて教えてもらおうと思って。だけど、来る途中に足を滑らせてしまって、まああなたが見たとおりの状態になってたの」
こんな山奥の村まで、踊りのためだけに来ようとするなんて、本当に変わってる。それとも、この村の踊りっていうのが、そんなにすごいものなのかしら。
「パーカーさん。この村にはもう踊りがないのですか?」
「……あるにはある。が、ほとんど物語みてえなもんだな。今でもまともに踊れるのは村長くらいなもんだ」
「え、村長も踊りをするの?」
わたしはそっちの方がびっくり。エーシャがするようなことを村長がするなんて想像できない。
「一応、村の伝統だからな。村長になる人は代々、踊りを受け継いでいくのさ。俺がもう少し若かったときゃ、女でも少しは踊れたやつはいたもんだが、近頃は若い娘はリリィ、お前を置いてはほとんど出ていったろ。だから踊れる人間は少ないのさ」
「そうだったの。でも、それならどうしてわたしに踊りを教えてくれなかったのかしら」
「そりゃお前が嫌がったからだろ。あと、都会に憧れるような若い娘にゃ、そもそも教える価値がないってこった」
それを言われるとつらいけど、何だかわたしには無理と言われてるみたいで悔しい。
「もし気になるようなら村長に掛け合ってみてもいいが?」
「お願いできますか?」
「ええ! エーシャ、本気?」
エーシャはにっこり笑う。
「ええ、もちろん。だって、私の夢は世界一の踊り子になることなの。今は町中だけの小さな存在だけど、いつかきっと……」
「ほお……。そんなら、早速行くかあ。でもなあ、あんまり期待はするなよ」
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