7.おくすり

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7.おくすり

 数日後、萌絵はぽめ兄と一緒に、さぼじろーからデータとして送られてきた完成版「サウンド・ドラッグ」のミュージックビデオを確認した。  魂の込もった力強い萌絵の声に合わせてヘッドホンの少女が振り向くラストの映像に、エモーショナルな余韻が漂った。高いクオリティに、再生が終わると2人は同時に拍手した。 「ねぇ、こないだの話って、本当?」  萌絵はチャットの返信を打とうとするぽめ兄の袖をつかんで尋ねた。 「ん?」 「どうして『聴くタイプのおくすり』なんて作ろうと思ったの。何か理由があったんでしょ」  ぽめ兄は一瞬、目を見開いた。  それからぐっと瞼を閉じて、パソコン画面に視線を移した。 「――ただ、救いたかったんだよ」  静かな部屋に、感情を押し殺した声が響いた。   「今の薬局にくる前、総合病院に勤めてたんだ。病気やケガのせいで生きがいを失う人、病室で暇を持て余す人、笑うことを忘れたまま旅立った人――いろんな人に出会って、薬剤師としての無力感を感じてさ」  一息()くと、寂しげに微笑んだ。 「こんなおれでも、音楽なら、誰かを救えるかもって思ったんだよ。Youtubeならベッド上でも見られるから。さぼじろーもモラも本当にいい奴で、面白がって協力してくれた。それで『聴くタイプのおくすり』が形になってきた頃、萌絵に再会した」 「そうだったんだ……」  萌絵は普段にこにこと笑っているぽめ兄の、過去の葛藤に思いを馳せた。 「よく効くおくすり、ありがとう。ぽめ兄の音楽は、私を救ってくれた。彼氏に溺れていた私に、大切なことを思い出させてくれた」  サウンド・ドラッグが世に出たら、多くの人が聴いてくれるだろうか。  心に寂しさを抱えた人も笑ってくれるだろうか。  薬物に手を出そうとしていた人も気が紛れるだろうか。  想像しただけでワクワクして、萌絵はそっと自分の胸に手を当てた。 「こちらこそ、ありがとう。それと」  ぽめ兄は苦笑いを浮かべた。 「萌絵に伝えておきたいことが、あるんだ」
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