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「薬! 薬を売ってくれ!」
薬種屋と彫られた木札を掲げた店の前。バンッと勢いよく扉を開け、俺は早口で叫ぶ。店の中で新聞を読んでいた気難しそうな老人がドロドロでみすぼらしい俺の姿に顔をしかめた。
「姉ちゃんの熱が高いんだよ!」
老人はふんと鼻を鳴らし、新聞の続きを読み始める。
「うわ言ばかりで……とにかく姉ちゃん苦しそうで、咳も酷くて……」
必死に説明しても、全く興味のない様子で俺のことをちらりとも見ない。老人の態度に腹立たしくなり、ガンッと机を蹴った。
「聞いてるのかよっ! じじぃ!」
「お前、町外れのボロ家に住んでるぼうずだろ?」
やっと口を開いたかと思えば、薬とは関係ない内容で俺の苛立ちは頂点に達する。
「だから何だよ!」
「金」
無愛想に老人が言葉を発した。
「金はあるのか?」
「あるっ!」
俺は家でかき集めてきた銅貨7枚を机に置いた。銅貨をチラッと見た老人は無感情な声を出す。
「銀貨5枚は必要だ」
「銀貨……5枚……」
驚きの大金に俺は呆然となり、目の前が真っ暗になった。
銅貨10枚で銀貨1枚。この時代、銀貨5枚あれば2週間はそこそこ良いものを食べられる。質素に生活すれば3週間。
奥歯をギリッと噛み締めた。
「でも……姉ちゃんが……」
「いいか、ぼうず。世の中そんなに甘くない。わしゃあな、慈善で薬を売ってるわけじゃない。商売っていうものは、商品に対価を払ってもらわねば成り立たん。その対価は金。薬に見合う対価が払えないなら、薬は売れん。出ていけ」
「このドケチじじぃ!!」
悔しくて叫び散らした俺を追い払うように、老人はシッシッと手を動かした。
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