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第4話 私と五右衛門さんのこと(間宮沙織)
◇時は人間が生きる地球より数億年先の地球 忍歴2020年◇
私の仕事は、いわゆる下級武士だ。奉行所で算盤方をやっている。
たまに、私の得意な人をあやつる術で、めんどうくさい数字をごまかして提出するのだだけれども、私の上司の方が一枚上手だ。
「間宮沙織くん。ここの数字を計算しなおして。」
すぐに上司に見破られて突き返される。この優秀すぎる上司のせいで、私のささやかな反抗心が時々むくむくとおさえきれなくなり、ちょっとしたストレス発散でプテラノドンに変身する趣味を始めたという次第だ。
もちろん、人間が生きていた地球より数億年先のこの地球には、本物のプテラノドンもたくさんいる。けれども、私の忍びとしてのなりきる術は結構いけていると思う。人間には、プテラノドンにしか見えない完成度でなりきることができた。
この前のことだが、焼酎を飲んで銭湯に行こうとして、颯介に呼びだされたことがある。
そのまま銭湯に行っていたら、溺れ死んでいたかもしれない。しかし、颯介がゲームで手に入れたトラビコンの魚という奇妙な魚を、颯介が私にも少しわけてくれた。それを食べたら、エラ呼吸がしばらくできるようになった。
戻ってきて忍びに戻った時は、しばらく銭湯で酒が残っていても大丈夫だった。その数日後にジムのプールで偶然であった職場の後輩に水術を披露しようとしたら、200メートル潜ったまま無呼吸で泳げたので、後輩からは水術の天才の称号をもらえた。
いつも数字をごまかして人をあやつる術でなんとかしようとする私に対する目が、ちょっと職場で変わった瞬間だった。
ま、颯介にプテラとして呼びだされることで、私が損することばかりではないことは確かだった。面白い冒険も数多く経験させてもらった。
忍びで奉行所勤めの算盤方には、一生かかっても経験できない冒険ばかりであることはまちがいなかった。
同じ職場に五右衛門さんがいる。28歳の忍びだ。職務は勘定方だ。
算盤方の私と、勘定方の五右衛門さんは、職務上はきってもきれない仲だ。
私がめんどうくさくなると人をあやつる術ですぐに上司の目をごまかそうとするのを、五右衛門さんはキッとした目でにらみつけてくる。正直、その目は怖い。でも、私はめんどうくさいという思いに勝てない。
「間宮沙織くん。ここの数字を計算しなおして。」と私が無事に上司に見破られて突きかえされるのを見ると、五右衛門さんは「ざまあ」という目で私のことを見る。その目は、ちょっとだけ、死んだ魚の目ににている、と私は思う。
ほんのちょっとだけだ。しかも私は毎回、心のなかで思うだけだ。
五右衛門さんの得意技は、聞き耳をたてる術だ。五右衛門さんは、私の心の声にも聞き耳をたてられるらしい。
朝、出勤したら、私の机の上に「なにが死んだ魚の目だ。」と秘密の文字で書いた密書がおいてあった。
うわ・・・
すごい能力をもつ忍びもいるものだ。
それ以来、私はなるべく五右衛門さんの顔を見ないようにうつむいて歩くことに決めていた。
「五右衛門くん、間宮沙織くん、ちょっときて。」
一日に何回か、上司の机の前に私たちは二人呼びだされる。もちろん二人だけではなくて、チームの仲間何人かと呼びだされたりする。が、私は、ひたすら五右衛門さんが隣にいる時は顔をあげないように努めている。
目を見ると、何か心のなかで思ってしまい、私の心のなかに聞き耳をたてられるリスクがあるからだ。
職場で余計な波風を起こすのをさけるのは、社会人として当然の処世術だ。
けれども、だ。
事件はおきた。
急に、颯介の冒険仲間のナディアのプテラが追加で必要になった。
ゲームの中のミッションで、「松明草をカメラアプリで認識させよ。」というふざけたミッションを颯介がクリアしようとしていた時だ。ゲームに参加した颯介とナディアはサバンナにテントを張ってミッションをクリアしようと奮闘していた。
私の趣味で始めたプテラ装だけれども、急ぎで仲間が必要になった。私はコスプレネットワークにひたすらSOSを送った。
そこでやってきたのが、プテラノドンになった五右衛門さんだったのだ。
彼は速攻で完璧なプテラ装で馳せ参じてきた。
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