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階段を降りて、すぐ右手の職員室へと向かう。しかし、入ろうとしたところで職員室の鍵が締まっていることに気付いた。人がいないのではない。逆だ。職員会議をしていて、先生達が鍵を閉めてしまっていたのである。これはよくあることだった。先生に用事があって職員室に来て、人がいるのに入れない時は大抵子供に聞かれたくない会議中なのだと。
――しかし、今夏休みだぞ。何話してんだ?
僕は廊下の窓からこっそりと中を覗きこんだ。間抜けなことに、先生達は廊下側の窓の鍵を閉め忘れていたらしい。窓が少しだけ開いていたので、中の声が丸聞こえだったのである。
「なるほど、それは問題ですなあ」
でっぷり太った中年のおじさん先生が、困り果てた声で言うのが聞こえた。先生達は大きなホワイトボードを出してきて、そこに数名の名前を書いて話し合いをしているようだった。まるで刑事ドラマでみる、捜査会議のようだ。
ただ、書かれている名前はどれもこれも生徒のものであるらしい。
二年五組、槙野健太郎。
四年六組、高橋和美。
六年一組、川合彩子。
そのほかにも数名名前が書かれていたが、どれもバッテンがつけられていた。まるで、子供を選ぶための選挙でもしているかのように。
「槙野くん、高橋さんもかなり問題児のようですが……川合さんはもう六年生だし、これ以上教育する余地もないかもしれませんな」
「そうなんです。私もあと半年で、彼女の性根を叩き直す自信はなくて……」
「表に出ないように、証拠に残らないように、いじめを繰り返すというのがなんとも嫌らしい。女の子のいじめは暴力ではなく精神的なものが中心となるから表に出づらいと言いましたが、これはなんとも狡猾で」
「ええ、ええ。本当にそうなんです」
そうだ、その通りだ、と先生達が声を上げる。太った中年のおじさん先生が、そんなみんなの顔を見回して言うのだった。
「他のお二人は、保留ということで。……今年、山の神様の生贄になってもらうのは、六年一組の川合彩子さんということでよろしいですね?」
その声に、異議なし!と大人達は次々と声を上げた。そして、川合彩子という女子生徒の担任らしき女の先生が、ほっとしたように声を漏らすのである。
「ああ、良かったわあ。これで、私のクラスもどうにか平和になります。クラスの和を乱すような子供は、社会に出ても人に迷惑をかけるだけですもんねえ……」
気づけば僕は、慌ててその場から駆け出していたのだった。階段を駆け下り、上履きを靴箱に置いて、職員用玄関から外へ。
校庭へ飛び出し、正門のところまで走ってきたところでようやく――息をついたのである。
「はぁ、はぁ、はぁ……な、なんだよ、なんだよアレ!?」
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