酷く正しい不自然な死

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 実際の葬儀は夏休みの間に家族と近い友人や知人たちの間で済まされたが,学校では登校初日に始業式を「偲ぶ会」と変更して教室でスピーカーから流れる校長の話を聞かされただけだった。  その後二人のこれまでの学校生活と残された同級生たちがいかに友人の死と向き合うかをスクールカウンセラーが中心になって行われた。  こうして始まった新学期は同級生たちの訃報でひどく重たい一日だったが,その暗く重たい空気はすぐに日常のなかに飲み込まれ,日が経つごとに多くの生徒たちの意識から同級生の死が薄れていった。  登校初日には教室で泣き崩れた生徒も,ゆっくりと時間をかけて二人の死を受け入れ始めると,日を重ねるごとにクラスから同級生がいなくなったことに寂しさを感じるものの,必要以上に落ち込んだり悲しむ生徒はいなくなっていた。  そして一ヵ月も過ぎると,この世を去った野村と井関の存在は,まるで高校を退学していなくなっていた生徒たちと同じように残された生徒たちの意識のなかからゆっくりと消え去っていった。  そんな教室でぼんやりと窓の外を眺めていた麻由は静かに鼻歌を歌いながら指先をくねくねと動かしていた。 「ねぇ,麻由……今日でちょうど一ヵ月になるよ……」 「え……? うん……そうだね……」 「今日も放課後にお花を供えに行かない?」 「うん……でも,野村はお花よりお菓子のほうがいいと思う……」  莉子は引き攣った笑顔を麻由に見せると,恥ずかしそうに机の中からコンビニで売っているチョコレート菓子を取り出した。 「これ……野村がよく食べてたやつ……」 「なんだ……莉子もお菓子がいいって思ってたんじゃん……」 「今朝,家の近くのコンビニで買ってきた……」 「そうなんだ……じゃあ,私はジュース買って持って行くね……」  放課後になると麻由と莉子は他の生徒たちに見られないようにコソコソと学校を出て,細い道を歩いて川沿いへと出た。  細い道から川原の遊歩道へと出ると夏の間に生い茂った雑草が川を覆い,遊歩道にも草がはみ出ていた。  川底がよく見える穏やかな流れが太陽を反射させてキラキラと輝いてみせたが,茂みが濃いところは影をつくり川の端を真っ黒く底のない闇のように感じさせた。
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