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緩やかなカーブを曲がると河川敷に降りられるコンクリートの階段があり,手前には駐車場と駐輪場が設置され誰もが川に降りて遊べるようになっていた。
遊歩道の周りには二人の背丈よりも高い雑草が茂り,辺り一面をシリシリシリシリシリシリシリシリと秋を告げる虫の鳴き声が埋め尽くした。
「莉子,ちょっとまってて,そこの自販機でジュース買ってくるから」
スマホを自販機にかざしてジュースを購入すると,傾いた陽射しのなかを紺色の制服のスカートを揺らしながら小走りで遊歩道へと戻ってきた。
「スポドリしかなかった」
やけに大きなペットボトルを抱えて莉子の側にくると,持ちにくそうにしながら左右からシリシリシリシリシリシリシリシリと響き渡る遊歩道を並んで歩いた。
少し歩くと駐車場の端にコンクリートで造られたひび割れの目立つ公衆便所があり,その先に木で組まれた献花台があった。
献花台にはソフトドリンクやスナック菓子,サッカーに関連したグッズが置かれ,台の下に取り付けられたビニール袋のなかに枯れた花が集められていた。
並んでいる飲み物は麻由がスポーツドリンクを買った自販機で売られているものが多く,麻由が買ったものと同じスポーツドリンクも既に六本並んで置かれていた。
「みんな同じとこで買ってるんだね……莉子が買ってきたお菓子もたくさんあるね……」
二人はお供えを台の上に置くと,手を合わせてしっかりと目を瞑った。
シリシリシリシリシリシリシリシリ……シリシリシリシリシリシリシリシリ……
黙って手を合わせいると,川で冷やされた生暖かい空気の隙間を埋め尽くすように虫の音が響き渡った。
献花台がある遊歩道からは野村と井関が命を落とした河原が見えたが,一ヵ月前はよく見えたところを生い茂った草が邪魔をした。
遠くからでも川底が見える緩やかな流れは,増水していたわけでもないのにサッカー部の高校生が二人も揃って死ぬところを想像すらできなかった。
そんな川を覆うようにして生い茂る雑草がゆらゆらと揺れて水面に真っ黒い影を落とした。
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