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アスファルトを溶かすような異常な熱さが続いた夏休みがようやく終わり,駅の改札から湧き出るように真っ白なシャツを着た生徒たちが小型の扇風機やタオルを片手に,照りつける陽射しから逃げるように古い校舎に吸い込まれていった。
何度も塗り替えられた教室の真っ白な壁もよく見れば無数のひび割れの跡が見え,不自然に光る床は夏の暑さで石油の臭いが微かにした。
今年は春先の随分と早い時期から熱い息苦しい空気が校舎を包み込んでいたが,カビ臭い冷気を吐き出すエアコンのおかげで教室の生徒たちは辛うじて暑さから逃れられた。
登校初日は皆俯いて教室のドアをくぐり,見慣れた黒板が無言で席に着く生徒たちと,その教室の雰囲気をやけに重苦しく感じさせた。
久しぶりに顔を合わせたクラスメイトたちは黙って席に着くと,言葉を交わすことなく静かに目を閉じて校内放送に耳を傾けていた。
『黙祷……』
高校生になって二度目の夏休みが終わり,久しぶりに登校した教室には啜り泣く声が響きわたり夏休み前と雰囲気が一変していた。
机の上に向日葵の花の入った花瓶が置かれ,その席にいるはずの男子の姿はなかった。
夏休み中に同級生が二人,近くの川で命を落とした。一人は同じクラスの野村俊輔で,彼は学校でも校内でのカースト上位のグループにいたサッカー部で活躍する人気者だった。
隣の教室でも同じように机に花瓶が置かれた机があり,そこは野村と同じサッカー部の 井関裕也の席だった。
二人の事故があった川は夏になると昔から地元の子供たちがよく川遊びをしていて,もう何十年も水難事故はなく常に穏やかな流れの地元の子供たちの遊び場所だった。
そんな子供たちだけでも当たり前のように水に入って遊ぶ浅い川は,台風の後でもない限り水嵩が増えることはなく,晴れた日は小魚を獲ろうと小さな網を持った幼い子供たちの黄色い声が響いていた。
誰もが安全だと思い込んでいた場所で突然,二人の高校生が命を落とし地元では大騒ぎになった。
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