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高校野球の春の県大会一回戦。
東岡高校3年生の福山 宏は一塁側スタンドの野球部応援席で、勝利に沸く隣の席の後輩たちを、冷めた目で見つめていた。
試合中、勝利を願う後輩たちとは違い、宏はずっと「俺が出られないチームなんて、負けちまえ」と胸の奥で願っていた。
東岡高校野球硬式野球部の3年生は12人。ベンチ入りできるのは20人だが、今回の春の大会、3年生でベンチ入りできなかったのは宏ただ一人。
とはいえ少し前までは宏は、レギュラーにはなれないまでも、外野手の控え、兼、伝令要員としてベンチ入りはできていた。
だが3年生になってから初めてのこの大会の登録メンバーの中に、宏の名前はなかった。
理由は簡単。
とてつもなく有望な1年生ピッチャーが入部したためだ。
その1年生ピッチャーに弾き出されるように、宏はユニフォームの背番号を失った。
“このままじゃ、ヤバいぞ”
高校球児にとっての最大目標は、夏の県大会。
あの甲子園に繋がる大会だ。
特に3年生にとっては、甲子園は遥か遠い目標だとしても、“最期の夏”の意味は、とてつもなく重い。
その3年生最後の夏の県大会まで、もう3ヶ月を切っている。
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