最終話 言わずに後悔した言葉

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最終話 言わずに後悔した言葉

 あれから三年の月日が経って、私は三十三歳になった。三年経つと、周りの人の状況もだいぶ変わっている。七菜香は、ファミレスで報告を受けた後にすぐに湊さんと結婚をした。  最近、二人目を出産したばかり。この前、蘭と一緒に出産祝いに自宅に遊びに行ったら、髪を振り乱して子供二人の育児に奮闘している彼女に出迎えられた。  七菜香は、最初こそ不安を口にしていたけれど今では二児の母。女の子と男の子の年子で、毎日てんてこ舞いだけど幸せだってお母さんの顔で笑っていた。蘭と二人、そんな七菜香に幸せのおすそ分けをされた気分になった。  蘭は、三年前に付き合っていた人とは別れて今はめちゃくちゃ年下の子と付き合っている。何でも、私のことがあって年下なら結婚の心配もないと学習したらしい……。  私としては、とてもとても複雑な心境だったけれど……。本人が楽しそうなので、静観している。  私はというと、三年前と変わらずに弘明寺駅に住んでいる。いつも二年契約なので、二年経つと大概新しい所に引っ越していたが、この町が気に入っているし住んでいるマンションも不満はないので、そのまま更新手続きをした。  だから今日も、いつもと同じように弘明寺駅から電車に乗って関内の会社に出社して仕事をしている。隣の席は、変わらずに営業の鈴木さん。  彼は、特に変わることなく営業成績も常にトップに居続けている。はっきり聞いたことはないのだが、多分常に女性とはお付合いをしている。  だから鈴木さんもいい年だし、そろそろ結婚しないのかと飲みの席で一度だけ聞いてみた。 「鈴木さんは結婚しないんですか?」  ビールのグラスを手に、私の言葉を聞いた鈴木さんは一瞬止まってしまう。私の顔を凝視して何かを考えていた。 「んー。勢いが足りないのかもね」 「何ですか? 勢いって。鈴木さん、モテるって自分で言ってたじゃないですか?」 「いや、そりゃさ、彼女はいるけれども……。なんかさ、ずっと一緒にいるだろうなって思えないっていうか……」 「なんですか? それ。彼女怒りません?」 「まー、だから結婚してないんじゃね?」  いつもの軽口を叩いて、その話題は終了となった。蘭は、うまく嵌らないと言っていたけど本当にその通りだ。  
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