最終話 言わずに後悔した言葉

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 蘭と待ち合わせをしているのは、いつもの喫茶店だった。待ち合わせ場所も、別に私よりじゃなくてもいいのにと疑問に思っていたのも確か。  一体、どうしちゃったのかなと私は喫茶店への道を歩く。  十二月に入り、関内の駅は街路樹にイルミネーションが付けられ楽し気な雰囲気を醸している。  夜になるとぐんと気温も下がり、上着がないと流石に辛い。もうすぐ、今年も終わりかと思うとちょっとだけ寂しい。  喫茶店に着いて店内を見回しても、当たり前だけど蘭の姿は見当たらない。「好きな席にどうぞ」と店員さんに声をかけられたので、私は一番端の人目が気にならないベンチシートに腰をかけた。  平日の遅い時間なので、ほとんどお客さんはいない。けれど、本を読んでいる人やノートパソコンを机に広げて一心不乱にキーボードを打っている人など一人客はちらほらいた。   私は、メニューを広げて何を頼むか考える。蘭は、ここで夕飯を食べるつもりなのだろうか……。合わせた方がいいと思うのだけど……。  とりあえず、コーヒーを頼むことに決めた。店員を呼んで注文をすると、私は自分のスマホを鞄からだして蘭にメッセージを送る。 『いつもの喫茶店の、一番奥の席にいるね』  すぐに既読が付いたので、返事はないけれど気長に待てばいいかと私は頬杖をついた。どれくらい待っただろうか? 一杯のコーヒーを飲んで、すっかり暇になってしまった私は、手帳とボールペンを出してお菓子の絵を描きだした。  お菓子教室で友達になった人と、たまにフリーマーケットで自分が作ったお菓子を売ったりしているのだ。  それが中々楽しくて、最近は時間ができると次はどんな物を売ろうかなと考えてしまう。ラッピングなど、安く可愛くするのを考えるのがとても楽しい。手帳を開いて、お菓子の案を次々に書いていた。  夢中になっていた私は全く気付かなかった。コツコツと誰かを探すような足音が近づいていることに……。 「良かった、見つけた」  男の人の声が聞こえて、私は自分の手帳から顔を上げてふとお店の通路に目をやった。そこには、スーツを来た若い男性がこちらを向いて立っていた。 「幸知君……」  
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