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四話 幸知の理由
私は、テーブルの上に無造作に置かれた食べ物の中からシーザーサラダを取って封を開ける。さっき、おにぎりを二個食べちゃったから野菜を食べたいと思ったのだ。
幸知は、おにぎりを選んで袋を開けている。
「食べながらでいいから、話聞かせて」
私は話を促す。明日のこともあるし、ある程度のことは聞いておきたい。幸知は、おにぎりをほおばって飲み込んでから口を開いた。
「俺、大学三年生で二十歳なんですけど……ってかもうすぐ二十一なんですが……」
「二十歳……若いとは思っていたけど思ってたより若い……。10個下か……」
幸知は、ペットボトルのお茶をぐびぐび飲んでいる。改めてじっくり見る彼は、お風呂から上がってさっぱりしたからか美男子っぷりが上がっている。
目はくりっとしていて、人懐っこい印象を受ける。鼻筋がすっとしていて、それが整った顔立ちを際立たせていた。
しかも、短く整った髪がまだ濡れているからか、色気をほんのり醸している。見ていたら、変にドギマギしてくる……。
そんな私をよそに、幸知は説明を続けた。
「で、そろそろ本格的に就職のことを考えないといけなくて……。うち父親が経営者で、その後を継ぐように言われて育ったんです」
「ふーん。なるほど」
私は、レタスにフォークを突き刺してもぐもぐとサラダを食べ進める。
「でも俺、シンガーソングライターになりたくて……。それを親に言ったら喧嘩になったと言うか……」
「よくあるやつだね」
「なんかちょっと馬鹿にしてます?」
幸知が、ムッとしている。別に私は馬鹿にしたとかではなく、言葉そのままの意味だった。
「してないよ。大学生にありがちなことって思っただけだよ。夢があっていいじゃん。二十歳なんて何やってもいいと思う。まー、親御さんの気持ちは、また別だろうけどね」
私は、サラダが入っているプラのカップを手に持って残っている野菜にドレッシングを絡める。コンビニのサラダって、美味しいし手軽に野菜が取れるから結構買ってしまう。
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