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「それ以外は、部活時間に練習してるってこと? シンガーソングライターって、作詞作曲もするの?」
「そうです。講義の空き時間はほとんど部室にいて、ギター弾いてることが多いですね。自分で曲作りもやります」
幸知の答えを聞きながら、私はどうしたものかと頭を悩ませる。聞いた感じ、これじゃー親御さんも趣味に留めろと言いたくなるのもわかる気がした。
「そっかっそっか。幸知くんのファンとかもいたりするのかな?」
「多少は……。大学の軽音部って大きな括りでは、好きな子たくさんいますけど。そもそも、お客さんの前でやったのも二回しかないですし」
「ちなみに、その時はオリジナル曲を歌ったりしたの?」
私からは、質問ばかりが浮かぶ。
「その時は、カバー曲だけです。だってまだ、お客さんの前で歌えるほど完成度の高い曲なんてできないですもん」
幸知が、自分の拘りを見せる。んー、何を聞いてもプロになれるよ、頑張ってって言えそうな話が出てこない。
さっきの路地で見た、絶対に譲れないという意地みたいな顔を浮かべていた人と同一人物に思えない。
「えーと、ちょっと話は戻るけど、で、何でギター持ってあそこにいたの? 親と喧嘩したって、どんな感じに?」
「父親に、シンガーソングライターになりたいって言ったらそんなの無理に決まってるだろう! って怒鳴られて……。趣味にできないならギターなんて捨ててやるって言われて折られそうになって、許せなくてギターだけ持って家を飛び出てきたんです。急いでたから、何も持ってなくて……。駅に着く間際に何も持って来なかったって気づいて、仕方なくあそこに座っていたって感じです……」
幸知は、父親のことを思い出したのか落ち着いていたはずの気持ちが再燃している。
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