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「今日は、どうするの? ちゃんと家に帰る?」
私は、一晩たった彼の考えを聞く。悩みを人に話して、一晩寝たので頭がクリアになっているといいのだけれど……。
「一度帰ってから、その後大学に行きます」
幸知は、何かを決心したかのように昨日とは違ってスッキリした表情をしていた。
「なら、良かった。表情もスッキリしているし、自分の考えがまとまったのかな?」
「考えがまとまったって言うか……。昨日、藤堂さんに言われたようにもっと具体的に色々動いてみたいと思います。本当にやりたいなら、動かないと駄目だって。想ってるだけじゃ駄目だって思いました。とりあえず、家に帰ります。本当にありがとうございました」
幸知がぺこりと頭を下げた。
「じゃー、あと三十分もしたら出るからね」
私がそう言うと、幸知は頷いて朝食を食べ進めた。
会社に行く準備を整えた私は、幸知に声をかける。
「そろそろ行くけど、大丈夫ー?」
「はい。今行きます」
玄関にいた私のところに、幸知がギターを持って歩いて来る。
「忘れ物はないよね?」
「ギターしか持って来てないので大丈夫です」
幸知は、照れ笑いを浮かべる。
「ふふふ。それもそうか」
私も一緒に笑い、そして玄関を出る。今日は、昨日の雨が嘘みたいに青い空が広がっていた。暑くなりそうな夏の匂いがする。そして、二人で並んで弘明寺駅へと歩きだす。
「関内からそれほど離れていないのに、のどかな街ですね」
幸知が、周りの風景を見ながら話す。昨日は、夜で真っ暗だったし雨も降っていたので景色を見る余裕なんてなかったのだろう。
「そうだねー。騒々しくないし、適度に開けているし住みやすい街かな」
私も、幸知の意見に賛成だ。この街に越してきて今年で二年目。ちょっとずつ探検して、お気に入りの場所を増やしている最中だ。
「あの……。ちゃんとお金返しに来ます」
幸知は、私の顔を見て言った。
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