二話 男の子を拾う

1/3

66人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ

二話 男の子を拾う

「びしょびしょになってるよ。大丈夫?」  私は、何も返事をしない彼に再度声をかける。彼は見上げていた頭を伏せて呟く。 「――――大丈夫です……」  そう言われたけれど、どう考えても大丈夫じゃない。声をかけたのは私だし、仕方ないな。 「帰れないの? 良かったら、家に来る?」  私は、そんなことを言う自分に驚いていた。こんなこと言うなんて、私の方が怪しい人だ……。案の定、彼はまた顔を上げて私を見るなり怪訝な顔をしている。 「別に怪しい人じゃないんだけど……。ほら、これ社員証。あそこの会社で働いているただのOLだよ」  私は、鞄から会社の社員証を出して彼の前に差し出す。彼は、社員証を見ると路地から会社のある建物の方に目をやった。 「あの……、どうしてですか?」  彼は、心底不思議そうに訊ねてくる。まあ、そうだろうなと私も思う。自分でも、明確な理由なんてない。強いて言うなら、変な子に思えなかったから。  それに、醸す雰囲気がとても必死だったから目を引いてしまった。 「ん-特に明確な理由はないけど……。強いて言うなら必死そうだったから?」  ギターを抱えて座り込んでいる表情が必死だった。ただ路地に座り込んでいるだけなのに、私が声をかけてしまうほどに彼には引き付ける何かがあった。 「…………必死。そうかもしれません」  自分に問うように、また俯いてしまった。私は、その場にしゃがんで彼と目を合わせる。 「どうする? うち、地下鉄に乗って20分くらいの場所なんだけど」  私は、至近距離で初めて彼の顔を見て整っているなと思った。印象としては、真面目で素直そうな好青年。恐らく髪は短髪で普段はスッキリした出で立ちなのだろうが、雨でびしょびしょだから顔に黒髪が張り付いてしまっている。  私が言ったことを、どうしようか考えているみたいだ。すぐに返事をしないところを見ると、やっぱり真面目な子だと感じる。 「あの……お言葉に甘えてもいいでしょうか?」  彼は、申し訳なさそうに恐縮した顔で返事をした。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!

66人が本棚に入れています
本棚に追加