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二十七話 デート①
横浜駅に着いた私は、待ち合わせ場所へと急ぐ。洋服が決まらないばっかりにかなりギリギリになってしまった。
幸知に指定された場所に着くとすでに彼は到着していた。彼に向かって一直線に歩いて行くと、私に気づいて手を振ってくれた。
「お待たせ。いつも待たせちゃってごめんね」
私は、いつも待たせてしまうことに罪悪感を覚える。待つことには慣れているけれど、待っていてもらう経験が極端に乏しい。だからなぜか落ち着かない。
「いえ、俺がいつも早く来すぎるだけです。咲さんと会えるの嬉しいんで」
そう言って幸知が微笑む。わかっているのかいないのか……。私はいちいちドキドキしてしまう。
「今日はお昼、何食べましょう? この前はパスタだったから別のがいいですよね?」
「何でもいいよ。夜も食べるんだよね? お昼は簡単な方がいいかな。マックとかでもいいよ」
私は、ちょっと考えてからそう返事をした。
「咲さんもマックとか行くんですか? 何か、イメージないです」
「行くでしょ。何でよ? むしろ好きだよ。ポテトとか無性に食べたくなるよ」
「そうなんですか? じゃー、マックにします?」
「うん。いいよ」
私が了承の返事をすると、幸知はもう当たり前のように私の手を握った。そしてそれは、当たり前のように恋人繋ぎになっている。
幸知が、私の手を引いて歩き出したので、されるがまま歩き出す。何で手を繋ぐのか……。今更もう聞けないし、もしかしたら今の若い子は特に意味なんてないのかも知れない。
いや、流石にそんな訳ないよね? 私の胸は、さっきからドキドキが煩い。
平然としていられない私は、幸知はどうなのだろう? と顔を伺うも、いつも通りの表情で人の波を上手にぬって歩いていた。
土曜日の横浜は、人がとても多いので本来なら歩きづらいはずなのに……。慣れているんだなと思ったら、ちょっとずつ自分も平常心が戻ってきた。
「咲さん」
「ん?」
幸知が、繋いでいた手をぎゅっと強く握った気がする。それに歩みもゆっくりになった。
「この前は本当にごめんなさい。せっかく来てくれたのに……。菫のことは気にしないで下さい。ただのサークル仲間なんで」
「大学なんて久しぶりだったから楽しかったよ。自分の時のこと思い出して懐かしかったし。菫さん……とっても可愛いよね。最初に見た時アイドルかと思った」
「目立つからモテますけどね……」
「幸知くんは、可愛い子に興味ないの?」
私は、思い切って聞いてみる。だって鈴木さんは、速攻アイドルだったから。
「可愛い子に興味ないことはないですけど……。別に菫は、そういう目でみたことないですね。咲さんの方が可愛いですし」
幸知は、さらっととんでもないことを言う。私はびっくりして、思いっきり素が出てしまう。
「は? 何言ってんの? そんなお世辞いらないよ」
「何でですか? そうやって照れるのとかめちゃくちゃ可愛いですけど」
冗談を言った幸知の顔を睨みつけたつもりだったのに、真顔でそんなこと言うからみるみるうちに顔が赤くなる。
年下だろうが何だろうが、イケメンという生き物はそれだけで手慣れるものなのだろうか……。年上の頼れるお姉さんを演出していたはずなのに、すっかりただのチョロインだと見抜かれている気がする。
「揶揄わないで」
私は、幸知から視線を逸らす。真正面から相手して勝てる気がしない。これが経験の差か……。
「揶揄ってないですけど。でも、とにかく菫が言ったことは気にしないで下さいね」
幸知が、そこだけしっかりと強調する。だから私は、コクンと頷いた。その後は、二人でマックに行ってお昼を食べた。
幸知は、私の大学生時代の話を聞きたがったので主にその話で終わってしまう。食べた後のトレイを片づけていて、そう言えばライブの感想言ってないと気づく。
けれど、すぐにプラネタリウムに移動したので話すタイミングを失ってしまった。
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