三話 自己紹介

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 マンションの中に続くアーケードを通って、内部に入って行く。ガラスでできた扉開きの重いドアを開けて中に入ると、住居者のポストが目に入る。  一度、自分のポストを開けて何も入ってないことを確認して二階へ続く階段を上る。エレベーターもあるのだが、見た感じ一階にいなかったので降りて来るのを待つくらいなら階段で上がってしまった方が早い。  私の部屋は、二〇五号室。先ほども言ったけれど角部屋だ。何度か引っ越しをしているのだが、今度は絶対に角部屋がいいとずっと探していた。  玄関の前に着くと、私は自分の鞄から鍵を出して鍵穴に差す。いつも通り鍵を回した所で自分の部屋の状態を思う。 変な物とか出してないよね……。ってか、そもそも大人の女性の部屋とは言い難い部屋だけどいいかしら……。 「あのね、余り期待しないでね……。漫画とか本とか山積みな部屋だから……」 「あっ、はい」  彼がちょっと挙動不審になっている。もしかした、緊張しているのかも……。それはそうか……、いくら怪しくないって説明してもさっきが初対面な訳だし。  ドアを開けると、馴染みのある自分の部屋の玄関だった。単身者用の1LDKなので玄関は狭い。私が先に入ってちょっと待っていて貰った。  カバンをリビングに置くと、脱衣所に行ってタオル持って来る。いつもお風呂は、朝掃除をして帰って来るころには入れるように予約をしている。  だからもう、いつでも入れるようになっている。 「お待たせ。はい、タオル。お風呂沸いてるからそのままお風呂に直行ね」 「えっ? でも……」  彼は、戸惑いの表情を浮かべる。いきなりお風呂って言われてもびっくりするだろうが、びしょびしょなのだ、そのまま上がられても困る。 「だって君、びしょびしょなんだもん。お願い、お風呂入っちゃって」  私は、手を合わせてお願いする。それを見た彼は、自分を見て諦めてお風呂に入ることに決めた。大人しくタオルを受け取る。 「ギター拭いといてあげるから頂戴」 「すみません」  彼は、もう拒否するのを諦めたのか私の言うことに素直に従う。玄関で、びしょびしょになった靴下を脱いで上がって来た。私は、お風呂に案内して扉を閉める。 「ちょっと近くのコンビニに行って来るからゆっくり入ってね。しっかり温まるんだよ。あと、洗濯物は洗濯機に入れといて。乾燥もできるから明日の朝には乾いてるよ」 「はい」  ドア越しでも、私の声はちゃんと聞こえたみたいで返事が返って来る。よし大丈夫そうだなと確信した私は、ギターを拭いてリビングに置くと財布だけ持ってもう一度外に出た。  
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