二十八話 デート②

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「咲さん、今日髪型が違うからかな? この前とまた違って可愛いです」  幸知が、私の耳元でそう囁いた。私は、もう隠すことができないくらい赤面してしまう。耳に心地よくて、誘いこまれてしまうような声にクラクラする。  私は自分の耳を抑えて声をあげた。 「幸知君、わざとやってるでしょ! いい加減怒るよ!」 「だって咲さん、俺の動作にいちいち意識してくれるから嬉しくて」  そう言って、幸知はニコニコしている。完全に負けている。私はもう、自分に呆れる。幸知の言う通り、いちいち意識しているのは私だ。  男性経験がない訳でもないのに、初心な反応をしている私が恥ずかしい。  自分に呆れかえっていると、ホール内の照明が落とされて真っ暗闇になった。暗闇は、赤くなった自分の顔を隠せるから安心できる。  幸知は、暗くなったと同時にソファーに横になった。そして、私を促すように自分の横をトントン叩く。  私はもう、何もかも諦めて彼の言う通りに横になる。私の顔のすぐ横に、幸知の息遣いが聞こえる。私は、そんな至近距離で幸知の顔を見る勇気が持てず天井を真っ直ぐに見据えた。  すると、映像が始まったのか天井のスクリーンは空へと姿を変えていた。まだ明るい空から真っ白な牡丹雪が降ってくる。  神秘的な空間にいるかのような音楽が流れ、私は一瞬でプラネタリウムの映像に引き込まれる。さっきまで幸知の格好良さに狼狽していたはずが、どこかに吹き飛ぶ。  舞い散る雪は、やがて森の中へと移り変わる。真っ白な雪原にもみの木が一本ポツンと立っていた。  その木のてっぺんに大きな星のイルミネーションが輝いたかと思ったら、緑の葉や幹にポツポツと赤や黄色や青の光が灯る。やがてもみの木は、クリスマスツーへと姿を変えた。  きっと、クリスマスが近いから今の時期に合わせた映像なのだ。目に映る映像はどんどん姿を変え、雪原がクリスマスのイルミネーションとなる。  私は、流れるように変わる映像と音楽に釘付けになっていた。  そして映像はついに、綺麗に輝くイルミネーションの上空に視点が変わる。いつの間にか夜空に変わっていたそこには、満点の星空が広がっている。  キラキラと輝く星たちは、上空一面を覆っていた。この場所が、ホールだなんて忘れるくらい空と私は一体となっている。 「綺麗だね」  私は、小さな声でそう呟く。幸知は「はい」と小さな声で返事をすると私の手を握って自分のお腹の上に置いた。  私は驚いて、すぐ横にある幸知の顔を見てしまう。私が目にした幸知の顔は、今までで一番甘くとても嬉しそうに微笑んでいた。  その微笑みが余りにも綺麗過ぎて、私に向けられているものだという自覚がなく唯々見惚れてしまう。  そして私は、ゆっくりと視線を幸知から星空に戻した。幸知の見惚れるほどの笑顔を見られて私は幸せだ。もうこれで私は充分かもしれない……。
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