三十話 横浜の夜景

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「私さ、考え方が平凡なの。次に付き合う人と結婚したいと思ってるし、子供も欲しいなって思ってるの。それさ、幸知君受け止められる?」  私は、凄く酷いことを言っている自覚があった。でも、これは私の本音だ。これを隠して今彼と付き合っても、きっとどこかで破綻する。私が彼の重荷になるのが目に見えている。  絶対にそんな風になりたくなかった。これがわかっていたから、私は連絡がとれなかった。幸知が好きだから私じゃ駄目なのだ。  好きな人の重荷になるなんて、そんなの寂しいし、辛いし、切ない。  幸知は、私から視線を外さないけれど言葉が出ない。 「ごめんね……。でもね、これが十歳差のズレなの。幸知君が悪い訳じゃないんだよ。幸知君の気持ち、私凄く嬉しいよ。でもね、重荷になりたくないしきっと今じゃないの」  私は、段々と胸にこみ上げてくるものがあった。目元が、じわじわと熱を感じる。だけど、私が泣くわけにはいかない。 「咲さん……。俺……」  幸知は、何を言って良いのか判断がつかないようだった。情けない自分が許せないのか奥歯を噛み締めている。 「幸知君、きっと君なら大丈夫。後悔しないように全力でぶつかって社会に出ていける。どんな形であったとしても、私はずっと応援してるから。私の初めての推しだから」  私は一歩、後ろに下がる。 「咲さん!」 「駄目だよ。ここでお別れだから。じゃーね」  私は、そう言って幸知を振り切って走り出す。後ろから「咲さん!」と私を呼ぶ声が聞こえたけれど、もう振り向かずにそのまま走った。頬が濡れているのがわかっているから立ち止まれない。  私が走り去るその先には、今の状況に似つかわしくないキラキラ輝く夜景が広がっていた。海の先にみえるのは、遊園地の観覧車。  それだけ見ていれば幸せの象徴なのに……。今の私には、涙で滲んでぼやけているから見ることができない。  今はただ、幸知との別れが寂しい。だけど、この真っ青な寂しいさが時間とともに薄れていくことを知ってる。だから私は大丈夫。  でももう、ここには来られないかもしれないと思いながら歯を食いしばってひたすら走った。
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