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「ごめん。展開が急すぎてびっくりした」
蘭が、声を落としてそう言った。
「え? ってか、そんな関係だった?」
七菜香も目を見開いて驚いている。
「んー、話せば長くなるんだけど……」
私は、洗いざらい七菜香と蘭に幸知とあったことを話した。将来のことに悩んで、励ましていたこと。彼の、夢である歌を聞きに大学の文化祭に足を運んだこと。そして、みなとみらいでデートをしたことを――――。
二人は、口を挟まずに黙って私の話を聞いてくれた。たまに、ドリンクバーのおかわりをしに席を立つことはあったけれど。
「幸知君、マジだったのか……。大学の文化祭か……。それは中々だな」
七菜香が、思ったことを端から言葉にしていく。
「付き合ってみるって、ちょっとも思わなかったの?」
蘭は、彼女らしくズバッと切り込んでくる。私は、全部正直な気持ちを聞いてもらおうと素直に話す。
「あのね、それはちょっとも考えなかった。でもね、きっと今まで出会って来た男の人の中で、本当に私を大切にしてくれた人だった。恋だったかは、私にはわからないけれど……」
私は、綺麗な緑色のクリームソーダのグラスをじっと見る。グラスは、氷を入れたせいで水滴がついていた。
「じゃあ、何で付き合おうと思わなかったの? 別に歳の差あるけど犯罪な訳じゃないし……」
七菜香は、納得がいっていないようだった。
「だってね、私平凡なの。三十歳になってさ、次付き合う人と結婚したいって思うし子供欲しいって思うの。それをさ、幸知君に背負わせる訳にいかないじゃん。二十歳ってさ、今振り返るとわかるけど若いんだよ。可能性だらけじゃん。何をやっても許されるそんな年齢じゃん」
私がずっと思っていた彼への想いだった。幸知を見ていると眩しくて、私が隣にいることは憚られた。二人とも、私の言わんとしていることがわかるのか押し黙る。
「そうだけど……。でも、それでも良いって幸知君なら言うかもしれなかったじゃん」
七菜香は、きっと私のためにそう言ってくれている。
「私、邪魔したくなかったんだ。多分さ、私も変わらないといけないんだと思う」
七菜香や蘭としゃべりながら、はっきりしていなかった自分の考えが見えてくる。
(そう、きっと結婚に囚われている私の意識も変わらないといけないのだ)
「でもさ私……。逆に咲が羨ましい。今まで言ってこなかったけど、私さ……。結婚や子供に全く興味がないの。彼氏は、居た方が楽しいからつくるんだけど……」
はっきり物をいう蘭が、珍しく思い悩んでいるような話し方だった。
「何で? どこが羨ましの? すっぱり割り切れる蘭の方が格好いいよ……」
私は、蘭が言う意味がつかめなかった。私も蘭みたいに割り切れていたら、幸知と付き合えたかもしれないのに……。
「だって咲は、自分の家族が欲しいってことでしょ? それって素敵なことだよ。私なんて自分のことばっかりだもの。 本当にこれっぽっちも興味がないの。私っておかしいのかもって悩んだこともあったんだ……」
「そんなこと……」
私が否定しようとしると蘭が言葉をかぶせて来た。
「あるの。そんなんだから、付き合う時に一番最初に話をするの。それでも良いって付き合うのに長く付き合うとそろそろ結婚しない? って言われるんだから。それでいつも別れちゃうの……」
蘭が、初めてそんなことを話した。そんなことがあったなんて知らなかった。蘭は、いつも自信に満ちていて、時に毒舌なこともあるけど思いやりに溢れる女性だから。
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