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回想-① 悠子の彼氏
「こちらが私の彼氏です」
悠子がそう言って、わたしに村上君を紹介したのは一年の今頃だった。
「村上圭太です。一ノ瀬緑ちゃんだよね?いつも悠子から聞いてるよ」
村上君の第一印象は“さわやか”。
古文の教科書を忘れたから彼氏の教室に借りに行くという悠子について、わたしも一緒にその教室の前に来ていた。
簡単に自己紹介をした後で、「すぐ戻る」と村上君は自分の机に教科書を取りに行った。その後ろ姿をわたしたちは廊下から見ていた。
村上君がクラスメイトの男子たちと何か会話を交すと、その中の何人かがこちらを見たから、きっと彼女である悠子の話題だと想像がつく。だけどその視線が隣に立つわたしにもついでに向けられて、その中の一人の男子と目が合ったから、わたしは気まずくて顔を伏せた。
「青山君だよ。イケメンだよね」
悠子の言葉に、今目があった男子生徒が「青山君」というのだと知る。
あまりしっかりは見ていないけれど、確かに綺麗な顔をしていたような気がする。
「人気な人?」
「知らないの?入学式直後から女子の間では有名だよ」
「そうなんだ。確かに格好良かったかも」
「……あんたそれ適当に言ってるでしょ?」
「だって、わたし彼氏いるし」
顔を上げて反論したわたしに悠子が「つまらない女ね」と無茶を言う。
それに苦笑いしながら視線を教室の中へ動かすと、また目が合った。
だけどその視線はすぐに離れたから、わたしもそれ以上気にすることはなかった。
ハル君と同じクラスになったのは、それから半年が過ぎた高校2年の春だった。
「一ノ瀬さん、去年も圭太の彼女と同じクラスだったよね」
始業式の日、新しい教室で緊張しながら席についたわたしに、前の席に座ったハル君が振り返って話しかけてくれた。
「あ、うん。えっと……」
「青山遥。遥って書いてハルね」
「ああ!思い出した!村上君のお友達の!」
「そうそう」
「近くで見ると本当に格好良いんだね」
悠子が「イケメン」で「有名」と話していたことを思い出したわたしが、慌ててそれを伝えると「ありがとう」と綺麗な笑顔を返された。それがなんだか照れ臭くて、わたしは何もない机に視線を落とす。
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