9月 ハル君とわたし

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「ハル君、おはよう」 上擦りそうな声を、潰れそうな心臓を、どうにか押し込めてその名前を呼ぶ。 贅沢なことに、わたしはこの教室でハル君と一緒のグループに属している。 正確には、悠子と美紀とわたしの女子3人グループと、村上君とよっしー、里中君、それから玲くんとハル君の男子5人グループに分かれているのだけれど、悠子と村上くんが付き合っていることで、気づいたらひとつのグループになっているのだ。 「短いのも似合うね」 わたしを見上げてそう言ったハル君に、「ありがとう」と答える。 「ありがちなボブなんだけどね。自分ではすごく変な感じ」 褒められた嬉しさに言葉は纏まらなくて、それを誤魔化すように右手で髪を耳に掬い掛けるけれど、視線はきっと泳いだままだ。 「俺は好きだよ」 「え?」 「それくらいのボブ。可愛くて好きだな」 ひとつの躊躇いもなく、そんな言葉を吐くハル君に、わたしは思わず視線を止めてしまう。 綺麗に上げられた口角と、優しく細められた目尻に、心臓が危険信号を鳴らしている。 「ハルが新学期早々緑ちゃん口説いてるよ」 「モテる男はやらしいね〜」 村上君とよっしーの揶揄いに、ハル君はいつも通り笑う。 だってそうだよ。ハル君が「可愛い」って言ったのは髪型のことなのだから。 別に、わたしのことじゃない。 ハル君とわたしはクラスメイトで、友達だ。 この気持ちは届かない。 熱くなった耳たぶを隠したくて、さっき耳に掛けた髪をそっと戻す。 ハル君は優しい。 それはわたしにだけじゃなくて、平等な優しさだ。
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