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「ハル君、おはよう」
上擦りそうな声を、潰れそうな心臓を、どうにか押し込めてその名前を呼ぶ。
贅沢なことに、わたしはこの教室でハル君と一緒のグループに属している。
正確には、悠子と美紀とわたしの女子3人グループと、村上君とよっしー、里中君、それから玲くんとハル君の男子5人グループに分かれているのだけれど、悠子と村上くんが付き合っていることで、気づいたらひとつのグループになっているのだ。
「短いのも似合うね」
わたしを見上げてそう言ったハル君に、「ありがとう」と答える。
「ありがちなボブなんだけどね。自分ではすごく変な感じ」
褒められた嬉しさに言葉は纏まらなくて、それを誤魔化すように右手で髪を耳に掬い掛けるけれど、視線はきっと泳いだままだ。
「俺は好きだよ」
「え?」
「それくらいのボブ。可愛くて好きだな」
ひとつの躊躇いもなく、そんな言葉を吐くハル君に、わたしは思わず視線を止めてしまう。
綺麗に上げられた口角と、優しく細められた目尻に、心臓が危険信号を鳴らしている。
「ハルが新学期早々緑ちゃん口説いてるよ」
「モテる男はやらしいね〜」
村上君とよっしーの揶揄いに、ハル君はいつも通り笑う。
だってそうだよ。ハル君が「可愛い」って言ったのは髪型のことなのだから。
別に、わたしのことじゃない。
ハル君とわたしはクラスメイトで、友達だ。
この気持ちは届かない。
熱くなった耳たぶを隠したくて、さっき耳に掛けた髪をそっと戻す。
ハル君は優しい。
それはわたしにだけじゃなくて、平等な優しさだ。
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