綸言汗の如し

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 俺は、薄暗く狭い小部屋に居る。エアコンの効きが悪いのか、蒸し暑い。 「はい。では、あなたのお悩みを教えてください」  テーブルの向こう側に座っている女が、可愛らしいアニメ声で尋ねてきた。  声だけでなく、外観もアニメに出てきそうな巨乳キャラだ。大きな胸と引き締まった腰が、妙に現実離れした感じ。  そんな体つきに反して童顔で、綺麗というよりは、可愛いという言葉の方が適している。  女は手元でタロットカードを切っていた。  そう、ここは占いの館。  カードを切る手がぎこちないけれど、本当に占えるのか?  年齢は大学生の俺よりは上だろうが、三十歳には至っていない感じ。 「占いって、過去を聞かずに当てるもんじゃないのか?」  タメ口で話すことにする。  どうにも舐められている気がしてならなかったから。 「色んな流派があるんです。私はまず、相手の話しを聞く派なんです!」  女がプッと頬を膨らませ怒ったような表情をみせた。  また、それがアニメに出てきそうで様になっていた。 「言いたくない。聞かずに占ってくれ」 「話せないなら、帰ってください。お代は、基本料だけにしておきますので」  あの事件以来、気がおかしくなりそうな日々を過ごしてきた。  これまで「新興宗教に入るヤツの気がしれない」そう思って生きてきた。しかし、今なら分かる。こういった精神状態の人間が入信するのだ。  トラウマを背負い、自分一人では乗り越える事ができない。  そんなときに、親身に話を聞いてくれ「この壺を家に置くと、神様があなたを救ってくれますよ」などと言われたら、有り金をはたいて買ってしまうだろう。  そのレベルまで追い詰められていることは自分でも分かっていた。  だから、占いの館へ来たのだ。  誰かに「あなたは、こうすべきです」と言ってもらうために。  宗教に走っていないだけ、マシだと思う。占いならに高額の何かを売りつけられるわけじゃない。  有名な先生に見て欲しかったわけではない。だから、駅の路地裏にあるここにきた。SNSで場所だけが発進されており、コメントは数件だけ。 「お代は1500円にしてあげます。さっさと払って、お引き取りください」 「話せばいいんだろ、話せば」  俺は、あきらめて話すことにした。
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