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ここは異世界大陸、魔王城の最深部。
聖女レイナらの一行は苦難の旅の末、ついに魔王の居室にたどり着いた。石に囲まれた円形の部屋、毒々しい装飾のイスに虎の頭をした巨身の魔王が座っている。
「よく来たな、人間どもよ……我の前で名乗る栄誉を与えてやろう」
「覚悟しなさい、魔王。私は玲奈、日本から召喚された聖女です。あなたを浄化し、この世界を平和にしますわ」
日本の友達が聞いたら大笑い確定の口調だが、今の私の職業は聖女だ。
大学のゲーム同好会に所属する平凡な大学生の私はある日、剣と魔法と魔物がいるアニメのような異世界に突然召喚されてしまった。
戻る唯一の方法は魔王を討伐すること。あんまりな交換条件に呆然としたが、この世界で私はレベル無視のチート魔力があるらしい。上級魔法を易々と覚え聖剣で魔物を浄化し、たちまち聖女と崇められた。そして魔王を倒して日本に戻る決意をした。
一年に及んだ私の旅の仲間は三人。毛むくじゃらで身長二mの狼族戦士、紫の三角帽とマントを着た上級魔術師の若者、胸に銀十字の刺繡入り純白法衣をまとう治療師の少女。
「我が名はウォルフ、レイナ嬢の忠実な臣下なり。魔王よ我が膂力を受け止めてみよ、うおおお!」
「ボクはピート。レイナの加護を受けた十代にして大陸最上級の魔術師だ。ボクらをなめないことだね」
「えと……私アリス! 小さな体だけど治療師なの。レイナ様とみんなの傷を回復させて、がんばってサポートするの!」
魔王がくくくっと不敵な笑い声をあげる。
「たいした自信だ、小娘ども。だが四人を合わせても我の魔力の足元にも及ばぬ。何か秘策でもあるのか?」
「ええ」
聖剣を構えた私の答えに、魔王の笑いが止まる。
「南の谷の魔女はご存じ? 彼女から最終ポーションをいただきました」
「なんだと?」
長旅で私は魔王の弱点を知る魔女を探し当て、課された七つの試練を克服し、この薬を手に入れたのだ。
「アリス。ポーションの封印を解いてください」
「了解なのです!」
アリスが古い木箱を取り出し、解除呪文を唱える。金の錠がぼうと瞬いて消え、蓋がぱかりと開いた。
中には銀に輝く弾丸型ポーションと、羊皮紙が一枚。
アリスが私にポーションを渡す。それを一息に飲もうとして……
違和感を覚えた。
「アリス。この世界のポーションって普通、瓶に入った液体よね?」
「ええと……たぶんこの形は、おくすりの強大な魔力を封じ込めていると思うの」
彼女は羊皮紙を取り出し、文字を読み始めた。
「このおくすりは使用上の注意をよく読み、用法容量を守って正しくお使いください、なの」
「魔女のトリセツつき、ですか。それだけ危険で強大な力を持つポーションなのですね」
「用法1。このおくすりは使用者の体と精神に大きな苦痛を与えます。覚悟のうえで使ってください」
「最終ポーションに苦痛。それもよくあるパターン、問題ありませんわ」
この異世界、妙に現代日本とリンクしている部分がある。それも私が好きだった異世界アニメやゲームに似た展開だったことが、過去にもしばしばあった。
「私は聖女、その程度の覚悟はできています」
今度こそ銀薬をひと呑みしようとした瞬間、アリスが次の文章を読み上げた。
「用法2。このおくすりは座薬です」
…………へ? ざやく?
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