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雷の鳴る音で千咲は目を覚ました。
外は快晴、雲1つない空だというのに。どこかで雷でも落ちたのか。ぼんやりとしながら着替えてリビングで朝食をとっていると、不意に母が「そういえば」と思い出したように答えをくれた。
「林道の入口に雷が落ちたみたいよ」
「えっ」
「だから今日は別の道で学校に行きなさい……ってコラ! ご飯も途中なのに何処に行くの!」
怒る母の声を背に、千咲は走り出していた。
向かう先は、毎日挨拶したあの地蔵。夢の中の不思議な薬屋さん。きっと、彼は祖母の――……。
「あ、やっぱり来た」
「いるか!?」
「何で意外そうな顔してるの? 夢の中で助けてあげたでしょ。あの薬を飲んでたら、きっと千咲くんは薬屋さんのことなんて全部忘れてしまっていたよ」
「それは本当に助かったけど、あの……お地蔵さんは?」
「……そこにあるよ」
そう言って、いるかは道を開けるように下がった。
慣れ親しんだ林道の入口はなんだか焦げ臭い。雷がおちてから少し時間が経っているためか、人だかりなどはなくひっそりとしていた。
「あっ」
お地蔵さんは真っ二つに割れてしまっていた。
雷のせいで火が付いたのだろうか、祠は焼け落ちている。何かを蹴とばしたような気がして足元を見ると、細かい石の破片がそこかしこに散らばっていた。お地蔵さんの破片だろう。
「もう、ここには何もいないよ」
静かな声でいるかが言う。慰めるような優しい声だ。この不思議な力を持った友人は、いつも千咲に寄り添ってくれる。
「彼は自分の終わりを悟っていたんだよ。それで、最後の力を振り絞って千咲くんに会いに来たんだ」
「……そうか」
千咲は足元の破片を1つ拾った。きゅ、と祈るように優しく握って割れたお地蔵さんに頭を下げる。
「今まで見守っていてくれてありがとう、ひい爺ちゃん。お疲れ様でした。ゆっくりお休みください」
彼がもうここにいないのだとしてもそうしたかった。
感謝に似た、別れの挨拶のような、この祈りが届いたらいい。
地べたに転がるお地蔵さんの顔は、いつもと同じ柔らかな微笑みを浮かべていた。
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