みーつけた

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 すべり台とはちがう方向に立ち、「いいよー」と声をかけた。女の子は目星でもつけていたのか、植木に駆けよって根もとのあたりを熱心にのぞいている。  俺はベンチでひと息ついた。ここから女の子を見ているぶんには、あやしまれないだろう。二人は離れているし、女の子は自由に動きまわっているのだから。  飲みかけの缶コーヒーをすする。商談が不成立だったことを思い出し、また胃が痛んだ。眉をよせ、コーヒーのまじった苦いつばを飲みくだしていたら、女の子は勢いよくすべり台を登り始めた。すぐに、「みーつけた」と明るい声をあげる。 「今度はキミがかくす番だからね」 「はーい。うしろ向きになってねー」  宝探しの要領をすっかり覚えた女の子は、黄色いスコップを手にすべり台のスロープをすべりおりた。耳に心地のいい歓声をあげて。  子供とは、むじゃきでかわいいものだ。 「ないなー」  俺がみつけられないふりをすると、女の子はきゃっきゃと笑った。わざと見当はずれなところをさがせば、満足そうにうなずく。みつけたらみつけたで、「よくできましたー。今度はわたしがさがす番だね」と目を輝かせる。  本当にかわいらしい。さがしたり、かくしたりをくり返すうちに、俺はこの子を自分のものにしたいと考えるようになっていた。  ゆれる髪、やわらかそうな頬、光をたくわえた瞳、小走りで元気に動くふくらはぎ、俺の半分もない手のひら。  なにもかもが愛おしい。今、遊びでさがしているスコップなんかとはちがう。まさに、本物の宝ものだ。  いつの間にか、俺はにんまりと口もとをゆるめていた。あわてて頭をふる。  いけない。これはいけない。ちょっと待て。まずいな。このままだと、自分の欲望を抑えられなくなりそうだ。  どうしてこんな気分になったんだろう。まるで魔力であやつられているみたいだ。  子供と公園で遊んでいたら、自分の中に幼女趣味をみつけ出すとは……。本当に、なにがきっかけになるかわからない。  今なら、まだ大丈夫だ。やましいことはしていない。もう、この子を置いて立ち去ろうと思ったとき。 「あ、パパだー」  女の子が公園の出入り口へと走った。手には黄色のスコップをにぎったまま。  父親の姿を見て、俺は嫌な予感がした。  黒いスーツに黒いシャツ。ネクタイも黒い。オールバックにしているせいで、眉間によせたしわがはっきりと見える。遠目にも、俺をにらんでいるとわかった。
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