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目をあわせるのは危険だと判断し、視線を地面にずらした。すると、信じられない影があった。
翼が生えている。頭には、先が矢じりのようにとがった二本の角。俺はこのシルエットを知っている。
悪魔だ。女の子の影に翼を見たのは、目の錯覚じゃなかったんだ。
逃げなくては、とあせるものの足が動かない。女の子を横に、悪魔は俺に近づく。俺に顔をかっちりとむけている。女の子は、宝探しで遊んだとでも言っているのだろう。スコップを父親にわたした。
黄色のスコップをぶらさげた悪魔が、一歩前に出るたびに冷や汗が背中に流れる。俺がなにもできないうちに、手を伸ばせば届く距離にやつは来た。
間近で俺を観察する。娘に、不道徳なふるまいをした証拠でもさがすように、念入りに冷たい目が上下する。俺の心の内側すら見通すような視線だ。
俺は先ほど、女の子を自分のものにしたいと願った。
だが、願っただけだ。実際にはなにもしていない。宝探しで遊んだにすぎない。まさか、よこしまな欲望を持っただけで、悪魔の裁きがおりるのか。
悪魔は、ふんふん、と意味ありげにあごをふる。しゃがれた声が、薄い唇の間からもれた。
「みつけたぞ。おまえはよからぬものを、内側に秘めておるな。とんだ宝探しだ」
悪魔の手にした黄色のスコップが、ナイフに変わった。あっと声を出す間もなく、刺された。
「娘のめんどうをみてくれてありがとう。ふふふ。これは、わしからのお礼だ」
悪魔は口のはしを曲げ、皮肉に満ちた笑みをうかべる。俺は腹をかかえて倒れた。血が流れ出るにしたがい、体から力が失せる。かすむ視界のすみで、二人の背中に大きな翼が広がった。
二度と子供になんか興味を持つものか、と頭にめぐらせたのを最後に、俺の意識は途切れた。
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