みーつけた

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「オフィス街でも、こんな公園があるんだな」  小さな砂場と、すべり台がひとつ。あと、俺の腰かけている木陰のベンチ。道路とビルに囲まれたせまい空間に、申し訳ていどの設備があるだけだが、今の俺にはありがたかった。商談に失敗し、会社へもどる気になれない。色のあせたベンチで足を組み、缶コーヒーを傾けた。  いやだなあ、また課長に怒鳴られる。ああ、胃が痛い。  手のひらを腹へと当ててはみたものの、しくしくと沁みるような痛みは消えない。仕事のストレスか、それともコーヒーの飲み過ぎか。会社に入って三年目。早くも体にガタがきていた。つかれをいやしてくれる彼女でもいればいいが、女性にはどうにも気おくれしてしまう。  ふう。重いため息を吐くと胸がしぼみ、首が垂れた。そのままの姿勢でまぶたを閉じ、じっとしていたら声をかけられた。 「ねえ、遊んで」  目を開けると女の子が立っていた。小学校に行くにはまだ早い年ごろだ。ひざ丈の黒のワンピースがよく似合っていた。 「えっと、俺?」  自分で自分を指さす俺に、女の子はこくんとうなずく。ツインテールという髪形だったか、頭の左右でまとめた髪もいっしょにゆれる。 「パパかママはいないの?」 「ちょっとご用があるから、公園で待ってなさいって」  弱ったな。断るのはかわいそうだ。かといって、いっしょにいるとなると、気になることがある。早く来ないかな、この子の親。  願いをこめてあたりを見まわしても、それらしい人はいない。スーツ姿の男女がせかせかと通り過ぎていくばかりだった。  しょうがない。ちょっと相手をしてやるか。でも、こんな小さな子と、なにをして遊べばいいんだろう。迷っていると、女の子は俺の隣に座った。 「おとぎ話をして。悪魔の出てくるのがいいな」  にっこり笑う顔は、小悪魔的にかわいらしかった。
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