その微笑みが運ぶもの

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新しい朝が来た。希望の朝だ。 太陽は喜びに胸を開き、今日もやるぜと準備体操をしている。広がる青空はどこかに「残暑御見舞い申し上げます」と書いてありそうだ。 「なあ、どっちが勝つかなあ?俺は……」 「いや、俺は……」 そんな会話があちこちから聞こえて来る。日本中がいつもよりちょっとざわざわ。 8月も終盤だが、今日はとびきり熱くて暑い、特別な一日なのだ。 そんな人間界を見下ろす遥か空の上、雲の向こうにある天界の一角に、この日の為に建てられた小さな、しかし豪華な別荘があった。 金の装飾が施された門。鏡の様な大理石の玄関。 その前で夏風に葉を揺らすフェニックスの木陰に、細身の黒いスーツを着た男神(ダンディ)がモデル立ちで腕時計を気にしている。 ──そうだ、もっと晴れるが良い。 それが今日という日の運命なのだから。 それにしても遅いな…… ワイルドな銀髪を掻き上げながら、これが貴女の運命なのさ、と口説いた女神は数しれず。 涙と笑顔の交差点、行くか戻るかくたばるか。 人生という遥かな旅の、行方を見守る色男。 その名も(たか)き運命の神である。 雨を司る神の一人でもある。 ───きゃはははははは!─── やがて陽気に笑いながら、神様が二人駆けてきた。 待ち人来たりて思わず微笑むダンディ。 この二人に出逢えば誰もが笑顔になるであろう、スペシャルゲストの登場だ。
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