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田園風景が広がる絵に描いたような田舎。1日に数本のバスから降り立ち、私を取り囲む夏の景色に両手を広げてハグをする。都会と違って不快な暑さもなく、ここの夏とは仲良くなれそうな気がする。
「おばあちゃん、着いたよ」
最後に訪れたのはずっと前のはずだが、時が止まっているかのように祖母の家は変わらず古さを保っていた。奥からすっかり小さくなってしまった祖母がゆっくりと出てきた。
「長いこと連絡もよこさんと思ったらいきなり来たりして。元気にしとったんか?」
「ごめんごめん。これお土産。ちょっと出かけてくるね」
荷物を玄関に置き、挨拶もそこそこに家を出て夏に会いに行く。
私は考えた。どうすれば夏を引き留められるのか。そもそもそんな事は可能なのか。まずは夏と向き合う必要がある。都会でも夏は感じられるが、何かが違う。これぞ夏!という体験をする為に選んだのがこの田舎だった。都会に出てからの夏の思い出はあまり記憶にないのに、はるか昔にここで体験した小学生の時の夏の思い出ははっきりと覚えているのだ。私にとって、ここが夏に会える場所。
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