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夏と言えば虫とり。兄に連れられてよく訪れた林に行ってみる。街を歩いている時には気にも留めない蝉達の声。周りを木々に囲まれているこの場所は、うるさい!と耳をふさぎたくなるぐらいほどの大合唱が響いていた。
「夏よ、そこにいるんだね」
どう引き留めようか思案していると、後ろからガサガサと音がした。振り返ると、野球帽をかぶり虫とりあみにかごを持ったいかにも夏の少年といった男の子達が立っていた。
「え?誰?」
ここは彼らのテリトリーらしく、見知らぬ大人の女性がいる事に驚いていた。
「君達、この辺の子?」
「そうだけど…お姉ちゃんは?」
「橋の近くに住んでる中川のおばあちゃん知ってる?私はその孫だよ」
「ここで何してるの?」
彼らが不思議に思うのも無理はない。手ぶらでただ林の中に突っ立っている女が怪しくない訳ないではないか。
「お姉ちゃんはね、夏と話をしに来たんだ。もうすぐ夏が終わるけど、何とか引き留めたくて」
「何だそれ!」
真面目に答えたつもりが、少年達を爆笑させてしまった。
「だって夏が終わるのは悲しくない?その後は暗くて寂しい冬が来るんだよ?」
「でもその後は春が来て、また夏が来るだろ?新しい夏が来るって思うと、俺はワクワクするけどな」
「俺も」
これほどまでに真剣に考えている悩みを、ひと回り以上年の離れた少年達はこれっぽっちも重要だとは考えていない様子だ。
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