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ナーコが居なくなるなら、私がここに来る理由もなくなる。ようやく君から離れられる。叶わない望みに苦しむ毎日から解放される。
言い捨てて部屋を飛び出した。
外は、あの日のように冷たい雨が降っていた。
***
それから、彼の部屋には行っていない。
甚だ一方的だが、去るもの追わずの彼のことだから、気にしてもいないだろう。
いつものように窓際に座っているだろう彼に視線を向けることもしない。遠く離れた後方の席を選び、視界に入らないように努めた。
それでも、重ねた肌の感触と、分け合った熱の記憶は中々抜けていかない。キスをする直前の、私の中を勃つ彼の、甘露飴のように蕩けた瞳を思い出す度、胸が疼いた。
***
学食から立ち去った後、中庭を歩く。校舎を繋ぐ道の両脇に植えられた糖楓の葉が赤く色付いている。どんよりとした空を背景にチラチラと降り注ぐ様を眺めながら、私は大きく息を吐いた。
彼の前に座っていたのは、彼の数少ない友人の一人。実は、前々から密かにアプローチを受けていた人物だ。彼の情け容赦のない女の扱いを熟知しているだけに心配し、早く見限った方が良いとアドバイスをくれていた。
だとしたら、譲るというのは、私のことなのだろうか。ならば、躾というのは性技のことか。いずれ友人に譲るつもりで開発を請け負ったとでもいうのだろうか。
確かに、私は処女だったから、こなれた女ばかりを相手にしていた彼にとっては、相当面倒だったことだろう。しかし、意外にも辛抱強く解してくれていたし、強引なことをされたこともない。たまに変わった体位やベッド以外での行為を求められることはあったが、常識の範囲内だったと思う。性欲処理目的の自分勝手なセックスしか出来ないという評判とは裏腹に、ちゃんと優しかった。
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