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快感に喘ぐ私を見て、珍しくも嬉しそうな表情を浮かべていたのも、譲渡出来るほどに育っていることを確認し、満足していたのかと思えば納得がいく。理解はし難いが、交友関係が極度に狭い彼の中で友情が占める割合は大きく、たまに度が過ぎると感じることもあった。
なんといっても、あんなに可愛がっていたナーコを彼が手放すとはどうしても思えない。
私は決心し、顔を前に向け大股で歩く。
それであっても、彼の友人と付き合うことはしない。彼の周りごと、自分の中から締め出してしまいたいのだ。未練がましく思い出に浸るなんて真っ平である。大学生活はまだ一年目、始まったばかりなのだから。
落ち葉を蹴散らして歩く私の背後から、誰かが駆けてくる気配がした。私は道の脇に避け、後ろを振り返る。
「津島さん!」
彼だった。
いつもかったるそうにタラタラ歩いている彼が走っていることに驚き、どうやら私を追いかけてきたらしいことに二度驚いた。
「ど、どうしたのっけ?」
焦って変な問いかけをしてしまった自分を恥じる間もなく、彼に抱き締められた。私は目を白黒させ、硬直する。
「やっと会えた」
いや、ずっと同じ教室で講義を受けてましたけどね。隠れてはいたけれど。
「連絡も取れないし」
「そもそもお互いの連絡先を知らないよね」
女からの誘いが面倒だから交換はしない主義だって聞いてたし。
「困るよ。スマホ出して」
「なんで今更……」
「今更とか言わないで。出して」
強引だな、おい。
鞄を奪おうとする彼に抵抗し、身体を押し退け横を向いた。
「嫌なんだけど」
彼は地面を踏みつけ、足を鳴らす。
「何で?!そんなこと言わないでよ!どうして津島さんはいつまでも経ってもそんなんなの?!」
まるで子供のように喚く彼を、唖然と見上げた。
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