恋に現は抜かせない

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 16:00くらいか、先輩も終わったかな。 「ありがとございました」  帰るときはいつもそう敬意を払って挨拶をしながら店を出る。 捗った、これで今週はバイトに精を出せる。 「おーい、橘」  その声に反応して振り返ると、先輩がいた。コーチジャケットを羽織ってロンTにカーキのパンツをきてる。モテそうな格好。これは私が先輩がデートするからっていうから、一緒に出かけて選んであげた服だ。あと2着くらい一緒に考えた気がする。 「先輩、お疲れ様です。キャラメルラテ、先輩が作ってくれたんですよね?美味しかったです」 「はは、お前は人を褒めるのがうまいな」 「本当のことですよ」  自転車置き場に戻って自転車を取り出し映画館までふたりで走らせた。だいたい10分くらいでつくところに映画館がある。  ぎりぎり間に合って、スクリーンの横並びの席に腰掛けた。  海外で実在した人物をオマージュした作品、ミュージカル映画だから曲もとても良くて、ストーリーも面白い、評判なのはよくわかる。  でも私は、どの曲を先輩には弾いてもらおうかな、と考えを巡らせてしまって半分くらいしか集中できていなかった。
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