私はヘタレに恋してる

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 私の地元は季節を肌で感じるには十分なくらいの森林があって、田んぼもあり、広々としている。  大きいお店はないし、一番近いコンビニだって家から自転車で30分はかかる。それくらい田舎の村。 私は高校の登下校に自転車を使っていた。  道の途中に大きな川があって土手の道がある。そこにいくと定期的に聞こえてくるヴァイオリンの音色が好きだった。  週に3回必ず同じ時間帯に聞こえてくる。耳心地が良くて、手本みたいな正確なピッチに、柔らかい音色。 橋の下から聞こえてくるからその人となりは知らないけど、真面目で誠実な人なのは間違いない。 その時間が楽しみで高校に行くのは楽しかった。 ******************  高校2年生の夏休み前。  その日最後の授業が音楽で、帰り際に音楽室にペンケースを忘れてきてしまったことに気づいた。  友達と分かれて音楽室に向かっていく。階段を上がっていくと登下校時に聞こえていたヴァイオリンの演奏が聞こえてきた。  私が足早に音楽室に入ると、そこにいたのはナチュラルショートな髪の毛でザ・爽やかを体現したようなヴァイオリニストがいた。  学校の有名人。  生徒会にも入っていて、オーケストラ部の部長もやっていた。それを鼻にかけることなく人当たりもいい人だった。
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