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第1幕
わたくしを誘いに、今日もあの人は来るだろうか。
準備をしよう。
甘えてやろう。
わたくしは長い姿見の前に立ち、部屋着を脱ぐ。
今日は熱い。白い肌が微かに汗ばんでいる。
まずは襦袢に半襟をつける。半襟は白キャラコだ。
続いて着物と羽織を着る。
二つとも、大正天皇即位を記念して制定された紫色だ。
羽織は明るい紫色、羽織はやや赤みががかった紫色。
わたくしの趣味に似合う制服なものだから、姿見の前で一回転してしまう。紫陽花のような布が舞う姿は我ながら絵になると思う。
わたくしは姿見に顔を近づける。なるべく日差しを避けているので、顔は白い。肌のきめも細かい。日本人としては大きな目に、すっと整った鼻筋をしている。
少女雑誌の表紙を飾れる美少女だ、と自負している。編集部に写真を送ってみようかなと思ったけれど、あの方は目立つのがお嫌いだろうと考えなおした。
黒髪を三つ編みにし、頭部に巻きつける。『ガバレット』という髪型だ。
遠くで「おおい」、と声がした。
わたくしは玄関から往来を見る。
道をはさんで、向こう側にあの人の、玉城進一郎さまの姿が見える。
ああ、この方は、今日もわたくしの元にいらしてくれた。
わたくしは山際あらわ。
玉城さまと添い遂げるにふさわしい品性と品格を持たなければ。と心に誓いつつ、奔放さを捨てきれない。
今日も帝都見物に行こう。
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