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第2幕
玉城さまの笑顔がわたくしのすぐ横にある。きっとわたくしの顔は、耳まで赤くなっているだろう。そんな姿を見られたくなくて、わたくしはつい、あさっての方向に視線を揺らしてしまう。
季節は夏。
玉城さまは太陽だ。
玉城さまのお召し物は紺の長着。柄行は唐草模様だ。白いマイナーカラーシャツがのぞく。袴の着丈は短めで、紐をきりりと結んでいる。
わたくしは改めて、玉城さまのお顔を見る。
小さな顔に切れ長の目、カラスを思わせる黒い瞳。鼻筋は整っている。大学のご学友からは大変女の子にもてると評判だ。
わたくしが玉城さまの許嫁で良かったと胸をなでおろす。いくら容姿に自信があるといっても、それはわたくしの周りの小さな世界のお話だ。
もしかしたら玉城さまは、もっと美人と婚約したかもしれない。
「荷葉の香りがする。夏にぴったりだね」
「まあ」
玉城さまが鼻をひくひくと動かす。夏の蓮の匂いを焚きこめていることがばれてしまった。ある意味、素肌を触られるよりも深いところを覗かれるようで気恥ずかしい。
わたくしはおずおずと左手を差し出した。
玉城さまは男性の大きな手でがっしりとにぎる。
わたくしの心臓が大きく跳ねた。
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