第2幕

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 ほどなく、二人分のコーヒーが運ばれてきた。綺麗な文様の入ったガラスのコップだ。  玉城さまは何も入れずにストローで吸い上げた。  わたくしは黒いままのコーヒーは苦くてとても無理だ。たっぷりと牛乳を入れ、茶色になった液体をいただく。まろやかさと苦みが口に広がった。  ライスカレーが運ばれてくる。肉じゃがを黄色い香辛料で煮た料理と表現すればいいのだろうか。湯気からは異国の香りがした。  スプーンで一口すくい、口に入れる。濃厚な味の中にぴりりとからいものがあり、食欲をそそる。  気が付くと、玉城さまはもう半分以上平らげていた。男の方が夢中で食事をする姿は豪快さを感じさせる。見ていて気持ちがいい。 「そうだ。これ、行きたいんじゃないかな」  玉城さまが口を紙でぬぐいながら、懐から一枚の宣伝ビラを出しテーブルに広げた。 『港やの売出し』と表題が印刷されている。 「まあ、竹久夢二先生の」  思わず声が出る。  竹久夢二先生は、わたくしたち少女に絶大な支持を持つ画家だ。なよやかな少女を描かせたら天下一品。大人にも支持者は多い。 「ああ。美麗な画家だよな。少女の絵がまた素晴らしい。アルファベットのSを意識したゆるやかな曲線美がいい。『大正の歌麿』の呼び名は伊達じゃない」 「その、夢二先生の専門店に連れて行ってくださるの?」 「そうさ。ちゃんと調べた」  玉城さまは竹久夢二先生直営店、『港屋草紙店』の歴史を説明してくれた。  大正三年、東京日本橋の呉服店で開業。夢二先生デザインの小物類を販売する店舗だ。夢二先生が手掛けた一枚物の木版画を主力商品としている。  女性のわたくしよりも知っているとは驚いた。 「日本橋行きのバスがあったかな。さあ、行こう」 「ええ、喜んで」
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