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第4幕
休日の活動写真館はまあまあの込み具合だった。玉城さまとわたくしは、靴を脱いで畳間に座る。白一面の壁が目の前にそびえ、下には舞台がある。弁士が活動写真の解説をするのだ。
もうじき科白入りの活動写真が開発されると噂に聞く。弁士の出番は無くなるかもしれない。わたくしにはそれが良い事なのか悪い事なのかはよく分からない。雄弁な弁士も活動写真の華であるとも思うからだ。
「西洋の大作を観ると思っていたけど、こんな古典を選ぶとはね」
「わたくし、真夏は肝が冷えるような作品を観たいと思っておりますのよ」
「怖いよ」
「玉城さまが横にいらっしゃるので大丈夫です」
演目は、『牡丹灯籠』。
ウイン、と機械的な音がして、会場が一段暗くなった。
「さてさて、浪人の侍、萩原新三郎は、ふとしたことから旗本、飯島平左衛門の娘、お露と出会う」
弁士が映像に合わせて説明する。
白い壁には端正な顔立ちをした侍、萩原新三郎と、なよやかな娘、お露の目が合った場面が流れた。
お露は女形だ。小柄な美形の青年が演じている。女性の心になりきっている演技だけれど、どうしても女優に比べて一歩劣ると思えてしまう。
お互い一目惚れをし、逢瀬を重ねる。
活動写真は検閲に引っかからないようにぼかした演出をしているけれど、わたくしももう幼子ではない、どんなことが行われているかは分かる。
「お露は夜ごと牡丹灯籠を下げて新三郎の元を訪れる。日ごとにやつれてゆく新三郎」
新三郎の目の下にクマができている。気怠そうな表情だ。この役者、この化粧、上手い。
「何とお露は亡霊だったのです」
寺の和尚が新三郎の顔に死相が出ていると告げる場面に切り替わった。
お経を唱え、お札を授ける。家中に魔除けのお札を貼り、夜には家にこもり、期限の日までは絶対に外に出てはならないと強く言う。
「哀れお露は新三郎に会うことができず、ただただ悲痛な声を上げて、家の周りを歩くのみ」
お露の演技は恐怖よりも憐みを感じさせるものだった。
「ついに最終日、お露の悲痛な声が新三郎の耳にこだまします」
新三郎は一つの決断をした。
お露を捨てることなんかできない。
自らお札をはがし、お露と運命を共にした。
悲劇とも、純愛ともとれる終幕であった。観劇者たちが同情の涙を流している。
「俺が知っている落語のオチとは違うな。この話は最終日、お露に騙されて新三郎が外に出てしまうというものだった」
「お気に召さなくて?」
「いや、こっちの方が人間らしい」
「そうかもしれないわね。でも、わたくしは落語版も好きよ。最後に現実に戻るんですもの」
「あらわさんの解釈も興味深いな」
玉城さまが微笑する。
「わたくしもう一か所、行きたいところがあってよ」
「え、もう遅いんじゃないか?」
玉城さまが懐中時計を取り出して時刻を見た。
「夜の方がいいのですもの」
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