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何をするのかと思いきや。
わたしを掴んだままヤツデをひと振り。
ブオォッ
巻き起こる爆風の風に乗って、みるみる上空へひとっ飛び。
うそでしょお⁉︎
「ちょっと!ダメって言ったのにぃぃ〜」
ひとりじゃなきゃいいっていう意味じゃない。
ぜんぜん大丈夫じゃない、のに……。
時すでに遅し。
ジェットコースターってきっとこんな感じなんだろう。
腕で体を抱えられただけで、足は宙ぶらりん。
「きゃあぁぁぁ!」
最後の方は声にならない声を上げながら、意地悪なクラスメイトの服に必死にしがみつく。
強風でコントロールが効かない。
体全体が勝手に動かされる。
パラソルのようにスカートがふわりと浮き上がり、それを見たわたしは顔中を真っ赤にさせながら手で押さえる。
あっ、と思ったときには遅かった。
バランスが崩れたぐらつきにびっくりして思わず下を見てしまう。
遠すぎる地面との距離にサッと血の気が引いた。
恐怖で顔がこわばる。
天狗が片手で握っていたヤツデを垂直に倒す。
葉っぱが傾いたと同時に風がピタリと止んだ。
落下するのを恐れたわたしを抱えて浅風くんは軽々と宙を舞う。
何の迷いもなく着地。
ここは窓の外のベランダ。
狙った位置にすとんと収まって、無事を確保。
秒速でベランダまで移動することに成功したわたしたちは取り付けられた板と柵に守られている。
スパイ映画のようなシュチュエーション。
体を預けながら息を整える。
足場ができてもう安心なはずなのに、わたしの足はガクガク震えたまま。
「下を見ちゃダメ、下を見ちゃダメ……」
念仏のように小さく唱えて必死に耐える。
ぶつぶつ言ってるのを横で聞いていた浅風くんは「怖いならもう一度抱きついてもいいぞ」とか空気を読まないことを平気で言ってのける。
この状況で言い返す元気は残っていない。
通行人が少ない時間とはいえ、この辺りは家がたくさんある住宅街。
あんまりのんびりはしていられない。
打ち合わせもなく、わたしたちはすぐに息を潜めて中をうかがう。
こうしているとまるで忍者みたい。
揺れるカーテンの向こう側に黒い人影が見えた。
天狗の合図でわたしは息を大きく吸い込む。
彼の名を呼ぶと、影はびくりと上下に震えた。
それから思い出したように左右をキョロキョロ。
窓に意識を向けて、ためらいがちな声を発する。
「だっ、誰だよ!」
すごく警戒した様子。
今はひとりでいるみたい。
「同じクラスの白土地花。学校で話を聞いて助けに来たの」
相手に聞こえるようにできるだけゆっくりと喋る。
普段はそんなに大きな声を出さないから、ちょっとだけ心配になった。
数秒経って、激しいツッコミが返ってくる。
「はっ⁉︎ここ2階なんだけど!助けに来たってマジかよ」
勢いよくカーテンを開けたクラスメイトとばっちり目が合った。
あり得ねぇって顔で口をあんぐり。
……うん。わたしも現実とは思えないよ。
まさか風で飛んでここまでやってくるなんて普通はありえないもん。
「なっ!何してんの⁉バカなの⁉」
「そのセリフは浅風くんに言ってよ」
「地花がひとりで行かないって言うから来たんだろ」
「違うよ!飛ぶのがあり得ないんだってばっ!」
「えっ?飛ぶって何?どうやって来たんだよ」
「…………!(ぎくり)」
ひとしきりぎゃあぎゃあ喚いて、しーんとなる。
ご近所迷惑になってしまうのを避けるべく部屋に招いてくれたクラスメイトの言葉に従った。
彼の他には誰もいないみたい。
脱いだ靴を置きに行った玄関には他の人の靴が並んでいなかった。
家族はしばらく出かけているからひとりなんだと彼が漏らしたのを聞いてちょっぴり不安になる。
親の留守中に家に入るなんてなんだか悪いことをしてる気分……。
クラスメイトの部屋に置かれた四角いテーブルを囲んで3人で座る。
まずは転校生という肩書きを持つ天狗(もちろん内緒)の自己紹介から。
続いて、わたしの番。
自分から何かを話そうとしてもそれらしい話題がまったく浮かんで来ない。
ごく普通の日常会話のやり方が分からず残念に思う。
突然押しかけた状況に慣れたのか、落ち着きを取り戻した彼が聞いてくる。
「白土って高い所ダメじゃなかった?」
「今も昔も変わらず苦手!」
「……へぇ」
とても2階まで登ってきた人の発言には思えないらしく、真っ先に疑われている。
……ぜんぶ浅風くんのせいだっ!
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