自分の行いについてまわるアイツの正体を追え!

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 ……よかった、生きて来られて。  自分の教室までなんとかたどり着いたものの、髪はボサボサ。  服はシワシワ。  喉はカラカラ。  寿命が縮まったような気もするけど、考えるだけで恐ろしいことには目をつむるのが一番。  遅刻ギリギリだったため、席に着いてからすぐに朝のホームルームがはじまった。  担任の二階堂先生が慣れた手つきで出席簿を開き、ひとりずつ名前を呼ぶ。  呼ばれた人は、すぐに元気よく返事をする。  声が小さいとその場にいないことになっちゃうから、みんな頑張って声を出すようにしてる。  わたしの番はまだまだ先。  ときどき丸ブチ眼鏡の真ん中をくいっと指で持ち上げてから、先生は出欠の欄を埋めていく。  くすくすくす……  どうも、まわりが騒がしい。  耳元で女の子が隠れて笑ってる声が聴こえる。  なんだろう?  様子を見ようと振り向いたところに学年で一番の美女とウワサの、桜小路(さくらこうじ)さんの姿が。  いつも一緒にいる藤咲(ふじさき)さんたちと顔を見合わせてくすくす笑い。  そして、今度は笑う対象へと視線が向かう。  その先には、なんと……わたし⁉︎  えっ?えっ? 「白土さん。白土地花さん」 「はっ、はい!」  勢いよく立ち上がったために、椅子の脚がななめって後ろに倒れてしまった。  ガシャン、という派手な音。  みんなの注目を集め、わたしはパニックになった。  まるで狙っていたかのような素早さで桜小路さんが喋りだす。 「白土さんったら、まだ夢の中にいるようですわね」  彼女に続くように藤咲さんが笑ってみせる。 「ご自身の姿をよくご覧になって?とても朝の登校に来た格好ではありませんことよ」  あっ、と気づいたときには遅かった。  さっきまでの兄の暴走でひどい見た目になっていたことを思い出す。  誰がどう見たっておかしくなってるはずで……。  他の生徒たちも釣られて笑いはじめたところで、先生がこほんと咳払い。 「白土さん、あとで鏡を見ておいで」 「……はい」  わたしの返事を聞いて、先生は構わず出欠確認を続ける。  呆気なく終わって桜小路さんは残念そうに唇を噛む。  ……やっぱり、あのことを気にしてるのかな。  思い当たるとすれば数日前。  教室まで来てほしいと成瀬先輩に呼び出された。  一週間くらい前に傘がなくて困っていたのを見つけたわたしが折りたたみ傘を差しだすととても喜んでくれた。  助けてくれたお礼がしたいと言うので先輩の教室へと足を運んだところ、そこには桜小路さんが待っていた。  正しくは先輩に会いたくて探していたそう。  成瀬(なるせ)大和(やまと)先輩はかなりのイケメンで女子からの人気が高い。  つまりはそう。  彼女の恋敵(ライバル)にされてしまったみたい……。  成瀬先輩からもらったお菓子も、悔しそうにしている桜小路さんを見ていたらなんだかとっても悪い気持ちになった。  仕方なくぜんぶあげることにして自分の教室へと戻っていった記憶しかない。  恋の力ってすごいなぁ。  無事に戻ってきた折りたたみ傘を手にぼんやりと思った。
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