138人が本棚に入れています
本棚に追加
(信じられないくらい失礼な御方ですこと。いえ、前々から知ってはいましたが)
カロリーナはこめかみをおさえた。
「お断りいたしますわ」
「そうか、ただちに戻ってくれるか! ……え?」
「お断りしますと申し上げたのです。殿下。恐れ入りますが、わたくしはマギアの王立魔法研究所の立派な職員です。ここを離れる訳にはいきません」
婚約破棄されたときと同じ、毅然とした態度。
「研究所の職員だと? そんなもの、何になるというんだ。私と結婚した方が、一生安泰に暮らせるぞ」
「殿下とは結婚いたしません。王族たるもの、一度なさった決断を翻すことはおやめください」
「……このっ、生意気な女め!」
アンリは右腕を振り上げた。
「っ!」
反射的にカロリーナは瞳を閉じる。
しかし、どこもぶたれたりはしなかった。
恐る恐る目を開けたカロリーナとアンリの間には、二コラが立っていた。
「しょ、所長」
二コラは微笑みながらアンリの腕をしっかりと掴んでいた。
「自分より立場の弱い者へ手をあげるなんて感心しませんね」
(いつも通りのようでいて、声が、声が冷たいです……!)
思わずカロリーナまで背筋を正す。
「こいつは私の婚約者なんだ。どうしたって私の自由だろう」
「しかし、彼女は否定していましたよ?」
「何だと」
二コラはアンリから手を離すと、カロリーナの横に立った。
最初のコメントを投稿しよう!