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「えぇ、かまいません」
その後もおよそ王子らしからぬ吠え方をしていたが、カロリーナは無視して王宮を出た。
見えないものは証明できない。何を言っても無駄だろう。
まともにアンリと話し合えたのがいつだったかカロリーナは覚えていない。
常に違う女性を侍らせている婚約者に愛想をつかしたのが、いつだったかも。
迎えの馬車が停まっている。というか送りの馬車をそのまま留め置いてもらっていた。
(殿下の思慮に欠ける行動は以前から問題になっていましたから、わたくしのことをいくら非難したって、誰も信じることはないでしょうね。可哀想なアンリ様)
馬車に揺られながらカロリーナは瞳を閉じた。
そして考える。今まで縛られてきた己の人生について、この瞬間だけ、いくつかの選択肢が生まれていることに。
(そうですわ。……隣国へ行きましょう!)
ぱっとおおきな瞳を開く。
(隣国は魔法大国。わたくしの魔力量も普通くらいのはず。公爵家から離れて自由に生きる――きっと、今がチャンス)
決めてしまえば心は既に隣国へ飛んでいた。
★
カロリーナの想像通り、公爵家に罰が下ることはなかった。
国王からは『なんとか考え直してくれないか』と再三引き留められたものの、カロリーナは『殿下の意志は固いようですので、わたくしからは何もできません』と断った。
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